内省する力(第2回ユーザー中心のWebサイト設計・ワークショップ1日目)

昨日は第2回目となる「ユーザー中心のWebサイト設計・ワークショップ」の講師をしてきました。



内容的には前回同様ですので、どんなことをやっているかは以下エントリーを参照。

前回開催のご報告

今回の参加者のブログ


みんなで手を動かしながら考える

僕はこのワークショップの目的を「デザインの方法を使って、人と物のあるべき関係性を実現する方法を学んでいただく」ことだと考えています。

デザインの方法についてはここではあらためて述べませんが、そのうちの1つは「みんなで手を動かしながら考える」ことです。それは今回のワークショップの基盤となっている『ペルソナ作って、それからどうするの?』にも繰り返し書いています。

つまり、それは自分たちで描いたもの、作業しているものから感じられることから直接推論を働かせながら、アイデアや思考を重層的に構成していくやり方です。そこでは作業過程が思考過程になる。
具体的には、インタープリテーション・セッションによるワークモデル分析やその結果を統合するKJ法という方法を、今回は採用しています。

描くことで考える

ワークモデル分析では、ユーザー調査の結果をシナリオの形にまとめたユーザー行動情報を読み解き、フローモデル(ユーザーとそれに影響を与える人や物とのコミュニケーション・情報の流れを記述)やシーケンスモデル(ユーザーが行動を行う手順、情報の入手の順番を時系列に記述)などのモデルを描きながら、ユーザーの行動が行われる文脈を構造的に、俯瞰的に把握する作業・思考を行います。

つまり、以下の作業が必要になる。

  • シナリオからユーザーが行った行動を抽出する
  • 抽出した行動を紙の上に記述する
  • 記述した各行動要素の関係性を図式化の方法を用いて表現する
  • 表現した関係性がユーザーの行動の状況を反映できているかを検討する
  • 表現された関係性から「なぜユーザーはそうした行動を行うか?」を自問しながら、隠れた関係性を推論していく

こうした作業・思考を限られた時間内に、てきぱきとチームで役割分担しながら協力し合ってやっていく。

内省する力

その際、最低限必要なのは次のことです。

  • 迷うよりもとにかく情報を抽出し紙の上に配置する(失敗したら書き直せばいい)
  • 他人がみて読めるよう、認識できるよう、ていねいに描く(絵的にうまい必要はないが、きれいに描く)
  • 遠慮しないで自分の考えをはっきり表現し、他人の考えにも積極的に耳を傾ける(それがつまり役割分担)

この最低限必要な前提条件がクリアされないと、「みんなで手を動かしながら考える」というグループワークは成り立ちません。
なかでも大事にしてほしいのは「ていねいに描くこと」です。描くことで自分自身の理解にも、いっしょに作業をするチームのメンバーの理解にもつなげることを重視するのがこの方法です。つまり、ていねいに描くというのは、自分自身を、そして、いっしょに作業するメンバーを大事にすることにほかなりません。デザインする人間として、そこは一番大事にしてほしいなと感じます。


もっと丁寧に描きましょう。丁寧に描くことで見えるものがあります。



異なる内容の情報をエリアに分けたり色を使って強調したり丁寧な表現です。


表現しないと前に進まない。作業も思考も。
また自分たちで表現した内容を内省的に評価できなくては、そもそもデザインになっていません。

ていねいに描けているか、書くスピードは制限時間内に仕事をするのに適したものか、書きだした要素にモレはないか、表現したものはユーザーの行動の状況をちゃんと描き出せているか。そうした内省が直観的に働かないようではデザインになりません。手が動かないデザイン、表現されたものを評価できないデザインというのはない。

情報を動かすことで、情報に訊く

これはワークモデル分析だけでなく、KJ法でも同様です。
KJ法は既存の枠組みにデータをはめ込むことではありません。与えられた情報からその全体像を理解するのに適切な枠組みを発見していくことです。

ですから、手順としては、最初に大きな分類をして細分化していくのではなく、似た要素を小さなグループにしてそれにラベルをつけ、次にそのラベル同士の類似によって小さなグループを中くらいのグループに、そしてさらに大きなグループに固めるという小から大へのアプローチをします。

このグループ化と作業過程でつけられるラベルに意味がある。
グループ化ができたら、今度はグループ間の関係性を決める。線でつなぎ、その線の意味を考える。そうするうちに全体像が見えてくる。ユーザーが何にこだわり何を重視しているのか、何が問題であり何がゴールなのか。そうした行動全体の構造がみえた状態を表現できたかを内省することが大事です。

頭のなかで迷うのではなく、手を動かしながら情報の配置を変えることで、情報そのものに訊ねることを重視する。頭で分類するのではなく、直観的な類似を重視して似ているものをとにかくグループ化し、それにラベルをつけてみる。ラベルをつけることで元の情報が別のものに変換される。それが解釈です。その解釈を繰り返し積み上げるなかで発想が生まれてくる。

「手探り」という方法

最初から存在する既存の枠組みのなかにあてはめようとするから手が動かない。だって、その枠組みが見えていないのだから。
でも、本当は見えていないのではなく、そんな枠組みなんてない。ないものを追いかけるから手が動かない。

そうではなく、「手探り」という方法の有効さをもっと知ってほしい。手探りでその手の感触から何かを見出していく感覚を大事にしてもらいたい。類似のグループ化、ラベル付けということを繰り返していれば枠組みなんて自然に見えてくるのです。直観と内省を働かせて作業を進めることに身を任せることを学んでもらえれば、と思います。

そういった作業を自然にできるよう身につけること。すくなくとも、その感覚を体験してもらうこと。そして、何よりそのことを楽しんでもらうこと。それが今回のワークショップのゴールです。

この頃は真贋についての論議がはやっていて、時には、本物と贋物の写真を、御丁寧に並べて見せたりする。が、骨董という煩悩の世界は、そんな単純な考えでわり切れるものではない。自ら手を汚したことのない門外漢が、単なるのぞき趣味を満足させているにすぎない。

この白洲正子さんのことばを考えてみてほしい。骨董ではなくデザインでもおなじです。「自ら手を汚したことのない門外漢」になって単なるのぞき趣味であってほしくはありません。自らの手を汚すことで世の中的な常識の枠組に頼らない真贋を自分の直観で感じとる力を身につけてほしいと思うのです。だって、しょせんは人の世は煩悩の世界なのですから。煩悩を知らず、「あるべき生活世界の形成」などはできっこないのです。

うまく描く方法、答えを見つけるコツがあるわけではないんですね。
ていねいに自分たちの感性を最大限に外に開きながら目の前の情報やいっしょに作業する人の声に耳を傾けながら感じたものを形にしていく。その手探りの作業の先に、うまい表現も答えがあるのです。

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