ペルソナは、製品とそれを使う人の関係性を理解するためのモデル

仮想のユーザモデルであるペルソナを作る際、どうもぼんやりとしたユーザー像を作ってしまうケースが多いように思います。「ぼんやりとした」というのは、製品・サービスをデザインするにあたって参考になる情報が含まれていないという意味で。

そもそも、ユーザー調査の結果得られた情報をそのままペルソナに盛り込んでいるだけのものが多い。調査結果全体を見渡してみて、ユーザー行動の構造をきちんと解釈した上で、ユーザーの製品・サービス利用の背景や目的、ゴールを明確に定められていないペルソナが多いんですね。

ペルソナは、製品とそれを使う人の関係性を理解するためのモデル

どうもペルソナというものを人を理解するためのツールだと誤解している面がある。そうじゃないんですね。ペルソナはあくまで製品とそれを使う人の関係性を理解するためのモデルです。それゆえ、ペルソナには基本的に製品をどうデザインすればよいかがわかる情報のみが簡潔に示されているほうが望ましいと僕は考えます。

ペルソナとは、そもそもインタラクションデザイナーであるアラン・クーパーが考案した、ゴールダイレクテッドデザインと呼ばれるインタラクションデザインの手法の一部です。



詳しくは『About Face 3 インタラクションデザインの極意』に紹介されていますが、ゴールダイレクテッドデザインは上図のようなプロセスに従って、インタラクションのデザインを行っていきます。
ペルソナという形でのユーザーモデリングを含めた利用状況のモデル化、そこから、シナリオ法を用いた要件の定義、さらには要素の抽出~構造化を経て、再度、詳細なインタラクションを描いたシナリオとペーパープロトタイピングの手法を用いてのデザインのフレームワークの作成へと向かう。このプロセスを可能にするための情報がペルソナに集約されているかが重要であって、それに貢献しない情報が雑多に提供されても役に立たないどころか、デザインをする上で混乱を生じさせます。

利用者にとってどんな情報がわかっていないと製品やサービスの要件や具体的な形や動きが決まらないかと逆から考えるとペルソナに含むべき情報が見えてくるでしょう。
製品・サービスを使う人の利用背景や制約条件、利用者の役割、利用目的や3つのゴール、利用時の優先事項など、どのような状況において何を求めて製品・サービスが使われ、どのように用いてどんな効果を得たいと考えているかがわかる情報が必要です。製品やサービスへの理解度、習熟度などの情報も参考になります。

ペルソナは、キャラクター設定ではない

多くのペルソナが本当にデザインする上で必要な情報を盛り込んでおらず、なんとなく、こういう人いるだろうと思わせるような雑多な情報を集めたものとなってしまっています。
ペルソナは何かのフィクションの登場人物のキャラクター設定をしているわけではありません。小説や映画や漫画の主人公を考えるわけではないのです。人物像としてもっともらしくある必要なんてないし、それが魅力的かどうかなんては全く関係ない。人となり全体がわかる必要もなくて、むしろ、特定の製品を使う際の情報だけははっきり見えるというもののほうがいいのです。

そもそも人間を全般的に理解することなんてはずがないですよね。
個人というものを何らかの主体性をもった固定化した存在と捉えるようになってしまったのは近代化の弊害でしょうか。人なんてそれこそいろんな顔をもっていて、決してひとつの側面で捉えきれるものではないと思うんですけどね。どうも自分に対しても他人に対しても、ひとりの個としての人間というものを期待してしまう罠にはまってしまっている傾向がある。でも、本当に人間のことを考えると、そんな固定した個なんものはただの幻想だとわかるはずなんですけど。

友達でも、恋人でも、家族でもいい。誰か、よく知っている相手のことを思い浮かべながら、自分がどれだけその人のことを知っているかを考えてみてください。
どんなによく知っていると思っている相手のことでさえ、ある一面しか理解できていないのがわかるでしょう。

ましてや、友人や恋人や家族ほど、親しくない一般的なユーザーのことをそんなに深く理解できるはずもありません。深く広く理解しようとすれば、それこそ友人や恋人や家族とそうしているのと同じように、相手と多くの濃密な時間を過ごすことですこしずつ理解の度合いを深めていく必要がある。もちろん、デザインのための調査では、そこまで行うのは無理でしょう。だとすれば、深さはともかく範囲に関しては、ぐっと絞り込む必要があります。

調査それ自体よりも解釈を大事にする

大事なことはユーザー調査をしたあと、調査対象者ひとりひとりの行動をきちんと解釈して構造化するという作業を怠らないことです。もちろん、調査自体をきちんと製品デザインのヒントになるような情報を仕入れられるよう、調査のフォーカスを絞り込んでおくことも必要ですが、そこからさらに自分たちの解釈によって利用者行動の全体像を構造的に把握する作業をそれ以上に重視しなくてはなりません。

本来は、調査それ自体よりも解釈が大事なんですが、どうもユーザー調査の結果を単なる事実としてそのまま使いたがる人が多いんですね。そこには想像することへの怠惰を感じます。

利用者がインタビューの際に答えた事実は、事実は事実でもそれはある特定の条件下における事実です。赤信号なら止まる、青信号なら渡るのと同じで、条件が異なれば行動も変わっておかしくないものがほとんどです。利用者がインタビューで答えた事実をそのまま使うというのは、この信号の色と行動の関係のような、物事とそれに対応した人びとの行動の関係性を無視しているのに近いんですね。

実際は、「交差点を渡った」という事実は「青信号だった」という状況も含めて把握しないと意味がない。あるいは「赤信号だった」が「遅刻しそうだった」ので「周囲に車がないことを確認して渡った」という情報とともに理解しないといけません。さらに「会社に遅刻しそうだったから渡った」が、「彼氏との待ち合わせだったら遅刻しそうでも渡らなかった」なんてことも見えてくればなおよい。
そうした利用者の行動とそれが行われる状況との関係を解釈してあげることが必要です。具体的にはワークモデル分析という方法を用います。


ワークモデル分析の実施風景


ワークモデル分析による個々の利用者の行動の構造化を経たのちに、類似した利用状況を有するユーザーグループの情報をKJ法を用いて統合します。その際にも解釈が必要になってきます。
個々の利用者を解釈した際には見えなかった行動と利用状況の関係性が複数人の利用者の情報を統合する際に見えてくることは多いんです。


KJ法によるデータ統合作業の実施風景


よくできたペルソナとそうでないペルソナ、つまり、デザインに有益なヒントを与えてくれるペルソナとそうでないペルソナの違いは、このKJ法による情報の統合時の解釈の深さ、密度によるものが大きいと思ってもらっていいと思います。この時点でデザインのための最初の発想が必要となる。KJ法はそもそもアブダクションを可能する推論の方法-発想法として生み出されたものですからね。ここで頭を柔軟に働かせて、目の前にある情報の背後に隠された意味の構造を見つけられるかどうかがゴールダイレクテッドデザインのひとつの肝だといってもよいと思います。

デザインするというのは人と物とのあいだの関係性を動かすこと

そのくらい、この解釈の過程が大事なんですね。

当然ですよね。友人や恋人や家族が相手でも同じで、僕らは相手の言葉や態度から相手の期待や気持ちを解釈します。そして、その解釈に基づいて言葉をかけたり、何か行動を示してみて、また、それに対する相手のフィードバックを見て、自分の解釈が正しかったかどうかを判断します。

結局、デザインを考える際でも同じだと思うんです。
あちら側=利用者と、こちら側=デザインする人あるいはデザインされた物との間に相互作用的な解釈の関係を想定しないとデザインの輪郭というのは決まってこない。何かをデザインするというのはまさにこの人と物との関係性を動かすことです。いまある人と物との関係に、別の物を組み込むことで違う状況を生み出すことです。

そうであるがゆえに、ペルソナというユーザーモデルを作る場合でも、新しい物を実際に利用者が使った場合、状況がどう変わるかを織り込んで利用者像というものを作る必要があるのです。もちろん、それはいまある物だけを使っている状況でのユーザー調査の情報をそのまま用いたのではだめで、情報を解釈をしたうえで新たな利用状況そのものを想像する必要があります。

そのためには何が必要かというと、そもそも人間のニーズを理解する力が必要なんですね。デザインとか関係なしに人の気持ちや欲していることを想像する力。人に対する好奇心とか思いやりですかね。「すべての現象のなかに自己を証かす」で書いたような人を含む物事が織り成す関係性を掴みとる力を普段から養うような生活の仕方をしている必要があると思います。

  

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