ペルソナを作ることがゴールではないのは、当然として、では、ゴールは何なのか。そのゴールに対してペルソナにどのような役割を担わせようとしているのか。
ユーザー理解のため、ユーザー視点でデザインをするため。それではまだ答えとしては曖昧です。
ペルソナは別の万能ツールではありませんので、ユーザーのあらゆる面を理解したり、デザインするために必要な情報のすべてを教えてくれるわけではありません。何を知りたいのか? その焦点が絞れていないとぼんやりぼやけた役に立たないペルソナができてしまうでしょう。
マーケティングセグメントとペルソナ
混同されがちなのがいわゆるマーケティングセグメントとペルソナです。あるいは今度はしていないけれど、両方に期待する役割をペルソナだけにまとめて担わせようと考えるケースもあります。気持ちはわかりますけど、それはむずかしいし、間違いを引き起こす要因になってしまうことは注意を促しておきましょう。売れる仕組みをつくるためのマーケティングのための市場あるいは顧客のセグメントと、ユーザーがより使いやすいようインタラクションをデザインするためのユーザーモデルであるペルソナ。明らかに2つの分類はその目的が違います。一方は買ってもらうため、一方は使いやすくするため。分類の目的が違えば、人間のどの部分に注目して分類を行うのかという視点もとうぜん変わってきます。
経験的なところからいえば、ある製品カテゴリー(例えば、携帯電話、例えば、オンラインバンキング)に対してかっこよいスタイルのデザインを求める人びとは必ずしも、その製品に対する理解のレベルが一致しているわけではありません。製品利用に関するリテラシーが高く誰に教えられることもなくマニュアルを見るでもなく、使っていくなかでほぼすべての機能を使えるなる人もいれば、見た目のかっこよさだけに惹かれているだけで、ほとんどの機能を使えない人、どちらもいます。
ユーザビリティ的な視点でセグメントを行うとすると両者はまったく別のユーザーグループで、したがって2つのペルソナとして別々にモデル化する必要があります。
でも、マーケティング的な観点からいえば、もしかすると見た目のデザインの良さで商品訴求を行うのなら、両者は同じ顧客セグメントに入るでしょう。
好み・嗜好と利用者の役割・ゴール
人がどういうものを好むかと、その人がどれだけ製品利用のための知識・リテラシーを持っているかには、そもそも相関する関係はないと思います。あるいは、使いやすさにはその人がどんな役割を持っていて、どんな仕事のために製品を使うのか、具体的にはどんな成果(ゴール)を求めるのかといったことに深いかかわりがあることは「道具の用途は生活や仕事のなかに埋め込まれている」で書きましたが、その役割-仕事-ゴールは、その人の好みとは何の相関関係もありません。ペルソナは本来的にはインタラクションデザインにつかうツールですので、とうぜん、利用者の役割・ゴールにフォーカスします。もしマーケティングがその製品の機能-成果にフォーカスした訴求を行うのであれば、もしかするとユーザビリティ的な視点でのセグメントと一致することもあるかもしれません。そうではなく、製品の感性的な面にフォーカスして、そもそもの商品企画やマーケティングコミュニケーションを考えるのであれば、製品の使い勝手にフォーカスしたペルソナのセグメントと、マーケティング的な顧客セグメントが一致する理由はありませんし、現実に一致する可能性は低いと思ったほうがいいと思います。
ペルソナという手法を生み出したアラン・クーパー自身、こう書いています。
市場の量的な調査と市場セグメントの分割は、製品を売るためには非常に役立つが、人々が実際に製品をどのように使うかについては大して重要な情報を与えてはくれない。特に、振る舞いが複雑な製品ではそれが顕著になる。
こういうことがあるので、何のためにペルソナを作るのかが不明瞭だったり、マーケティング目的と製品のユーザビリティ向上の目的を両方担う役目をペルソナに与えようとすると、ペルソナそのものが曖昧で、実際に利用する際に何も語ってくれないペルソナ、間違ったことを語るペルソナができてしまうのです。それはユーザーあるいは顧客の理解が、何にフォーカスして理解しなくてはいけないのか、何のための理解なのかがブレている証拠なのです。
何のためのペルソナを作るのか? ここはしっかり明確にしたうえでペルソナの利用を考えないと失敗の元です。気をつけましょう。
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この記事へのコメント
mas.
本質的に何が大事かを考えれば、大事なことにそれほど種類はない。
tanahashi
ただ、論旨とあっていません。
ここではマーケティングが「売る、訴求」を目的とするのであれば、顧客セグメントとペルソナは使い分けた方がいいですよ、といっています。
マーケティングは「売る、訴求」が目的でしょ、なんてことを限定するのがこのエントリーの論旨ではない。
目的が別なら道具は使い分けたほうがいいですというのが論旨であって、マーケティングの範囲どうこうはここで問題にしていませんよ。
タイトル通り、顧客セグメントとペルソナというセグメンテーションの方法の着目しているわけです。
tanahashi
上は、現実によくある混同に対して注意を促しているのであって、マーケティングと商品のトータルデザインを真に目的を一致でき、企業側と利用者側のニーズを包括的にマッチングしようと考えられる視点・思考をもった人なら、そもそも不必要な注意かもしれませんね。
ただ、現実はもっと分業されているなかで思考せざるをえず、かつ使える資源も限られた中で、顧客セグメンテーションとペルソナをいっしょにできないかという発想でやってしまい、混乱するケースがあるので、それに対する注意は必要です。
また、実際問題、そんな包括的な視点に立って、有効なツールとして使えるペルソナを作成できるか、そのためのユーザー理解のための調査が可能かというと、それもむずかしい。
使う人の視点と使うツールの視点の現実的な問題から、あまり範囲を大きくしすぎないことも必要だと思います。