About Face 3 インタラクションデザインの極意/アラン・クーパーほか

ゴールダイレクテッドデザインと名づけられた、ペルソナ、シナリオを用いたインタラクションデザインの手法を詳しく紹介する一冊。すでに何度かほかのエントリーで紹介してきましたが、あらためて。

本書によれば、インタラクションデザインという用語が使いはじめられたのは、本書の第2版からだそうです。初版では単にソフトウェアデザインと呼んでいたと書かれています。ユーザーインターフェイスデザインという用語もあるが、より広い範囲を対象にするため、インタラクションデザインという用語を使っているそうです。より広い範囲とは、形態、機能、内容、動作が複雑に絡み合っている状態を指しています。特に動的な要素であり、利用者との相互作用である機能と動作といった振る舞いの動的な要素をいかに形態や内容といった他の要素と統合してデザインするかということを重視して、ゴールダイレクテッドデザインというインタラクションデザインの方法が紹介されていると考えればよいでしょう。

ゴールダイレクテッドデザイン

本書で紹介されているゴールダイレクテッドデザインのプロセスはおおよそ次のようなステップから成り立っています。



  • 調査
    • プロジェクト定義(目的、目標の決定)
    • 物的調査(既存製品・仕事の見直し)
    • 関係者インタビュー(製品の可能性と制約の理解)
    • ユーザー調査(観察&インタビュー)
  • モデリング
    • ペルソナ
    • その他のモデル(ワークフロー、環境、人工物)
  • 要件確定
    • コンテキストシナリオ
    • 要件仕様
  • フレームワークの設定
    • 情報や機能のビジュアル要素(オブジェクト)の定義
    • フレームワーク(オブジェクトの関係、概念のグループ化、フロー、ストーリーボードなど)
    • キーパス・シナリオ(主要なパスの詳細なインタラクションの記述)、チェックシナリオ(主要なパス以外のインタラクションのチェック用のシナリオ)
  • デザインの精緻化
    • 詳細デザイン(見かけ、インターフェイス、振る舞いなどの精緻化)
  • 開発サポート
    • デザイン変更(新しい制約条件や締切への対応)

基本的には、利用状況の把握、要件の抽出、設計による解決案の作成、デザイン案の要求への適合性を評価する人間中心設計プロセスをより具体化して、現場での作業レベルにまで落とし込んだものとして見てよいでしょう。

特徴的なのは、ペルソナというユーザーモデルを使うこと、各段階でコンテキストシナリオやキーパス・シナリオと呼ばれる利用者と製品のあいだのインタラクションを物語風に記述したシナリオを用いて、製品の要件の洗い出しや、具体的なデザイン案の形態や振る舞いを検証する形をとっていることでしょう。

シナリオをベースにしたデザイン

利用者と製品のあいだで複雑なインタラクションが発生するインタラクティブな製品が増えてくるはずの市場環境を考えると、デザインの現場では今後ますます、このシナリオ思考が必要になってくるのではないでしょうか。

利用者の目的やゴール、利用する際の優先事項(作業効率やわかりやすさ、楽しさ、など)を考慮した上で、実際に利用者が製品を利用するシーンを思い浮かべながら書いたシナリオ。さらに利用者が製品を操作する細かい手順・インタラクションを記述したシナリオ。前者はコンテキストシナリオといい、後者をキーパス・シナリオと呼びます。こうしたシナリオを使って利用者が実際に製品を使う流れのなかで製品が備えておくべき要件、具体的な形態や振る舞いをデザインしていく。シナリオをベースにメンバーあいだでデザインコンセプトの共有がなされ、適切な議論が行われる。こうしたデザインのやり方が今後ますます必要になってくるのではないかと思います。

シナリオを書くためには、人びとの暮らしや仕事のなかでの行動に対する想像力が必要です。もちろん、それには人びとの暮らしや仕事に関心をもてないといけません。暮らしや仕事のなかで人びとがどんな役割を演じ、何をなさねばならない役目を担っているのか、その役目を果たすために人はどんな作業をどのように行い、どんなアウトプットを求めているのか、また、その作業をどんな気持ちで行っているかに関心をもち、理解に努めるところからシナリオ化の作業ははじまります。

人びとの暮らしや仕事を理解するために実際に現場に行って観察やインタビューをするのは大事なことです。でも、それ自体は手段であって目的ではありません。目的はあくまで人びとの暮らしや仕事に役立つものをデザインすることにあるのですから。その意味ではシナリオを書くのも、最終的なデザインを生み出すためのプロセスの一部です。
よく何を観察してよいかわからない、どんなシナリオを書いていいかわからないという声も聞きますが、たぶん、そういう疑問をもつ方はそもそもデザインする姿勢が間違っているのだと思います。人びとの役に立つものはどのような形態、どのような振る舞いをするべきかを自分自身で考えようとすれば、自分が何を観察によって理解すべきか、何をシナリオという形式で定義すべきかは自ずと見えてくるものです。少なくとも、実現すべきビジョンがあって、そのためにデザイン作業を行うなかで実際に観察やシナリオ作成を行ってみれば、何を知る必要があるか、何を記述する必要があるかは作業のなかで見えてきます。それでも、やり方がわからないというなら、本書を読むべきです(あるいは、こちら)。

要件、要素、分類と構造化、そして、視覚化・振る舞いの検討へ」でももうすこし詳しく紹介しましたが、ペルソナを作成したあとのコンテキストシナリオ以降のデザイン作業は次のようなステップで行っていきます。

  • コンテキストシナリオ
  • 要件の定義
  • 要素のリスト化
  • 要素の分類(情報の組織化)
  • 要素・要素群の階層構造化(情報の構造化)
  • UIフレームワークの検討(情報構造の視覚化・具体化)
  • キーパスシナリオ、チェックシナリオを用いたインタラクションの検討

シナリオを用いるのは、要件をリストアップするためであり、その要件を要素に変換するためであり、データ要素と機能要素を階層構造化し関係性を定義するためであり、それに基づき画面構成や画面遷移を検討するためであり、操作による振る舞いを検討するためです。このステップが適切に行われていないと「無数に並んだ福袋からいかに必要なものを見つけてもらえるようにするか?」で書いたような問題が生じてしまいます。そうしたデザイン作業をメンバーが同じものをみて検討できるようにするツールがペルソナであり、シナリオです。このあたりまでは拙著『ペルソナ作って、それからどうするの?』でも詳しく述べていますが、本書の優れている点は、さらにそのあとの具体的なUIのデザインやインタラクションのデザインのヴィジュアル面や振る舞いのディテール的な面に関してもきちんと押さえているところです。

デザインの精緻化

「Part 3 インタラクションのディティールのデザイン」がそれにあたります。

  • Chapter15 検索:データをもっと簡単に手に入れるために
  • Chapter16 アンドゥを理解する
  • Chapter17 ファイルとセーブを考え直す
  • Chapter18 データ入力の改良
  • Chapter19 ポイント、選択、直接操作
  • Chapter20 ウィンドウの振る舞い
  • Chapter21 コントロール
  • Chapter22 メニュー
  • Chapter23 ツールバー
  • Chapter24 ダイアログ
  • Chapter25 エラー、警告、確認
  • Chapter26 異なるニーズに対応するデザイン

といった章立てで、デザインのディテールの精緻化をどのような点に注意して、何を考えて行えばよいかが示されています。こうしたディテールの検討ができるように、その前の段階でシナリオによる要件抽出、キーパス・シナリオ、チェックシナリオ、そして、スケッチによるUIフレームワークといった3つの異なる視点を使って様々な角度からUIの形態や振る舞いを検討していく。いうなればプロトタイプを認知的ウォークスルーのような手法を用いつつ、フォームブレスト的に検討する作業が、ディテールの精緻化の前に置かれているのです。
ペルソナというユーザーモデルのところでも、詳しくは述べられていませんが、Contextual Designのワークモデル分析な考え方も取り入れられていて、似たようなテーマの本を書かせてもらった僕からしても、こんなによくまとまった本はないなという感想です。

インタラクションデザインの4つのP

この本のあとがきにこんなことが書かれています。

私たちは、ゴールダイレクテッドメソッドの構成要素を4つのPだと考えている。すなわち、プロセス(過程)、パターン、プリンシプル(原則)、プラクティス(実践)だ。
アラン・クーパーほか『About Face 3 インタラクションデザインの極意』

そして、本書では最初の3つのPを扱ってきたが、実践に関してはこのあとがきにすこし記述するにとどめています。

そのなかでこんな記述があります。

ユーザーのニーズに合致した製品を世に送り出すためには、非常に多くの人々の苦労を慎重に調整することが必要になる。私たちが経験から学んだことによれば、インタラクションデザイナとして力を発揮するためには、製品に四方八方からかかってくるさまざまな力の間でバランスをとるための責任のかなりの部分を自ら担うつもりにならなければならない。
アラン・クーパーほか『About Face 3 インタラクションデザインの極意』

と。昨日の「感謝の気持ちと他人の目」を書いた理由もまさにこれだし、拙著『ペルソナ作って~』で「みんなで手を動かしながら考える」を最重要テーマとし、その実践方法の記述に多くを割いたのも、これが理由です。プロセス、パターン、原則は個人でも学ぶことができます。しかし、実践となると、そうはいきません。異なるスキル、異なる考え、異なる利害関係をもった者同士が、おなじ目的(ユーザーのニーズに合致した製品を世に送り出す)のために協働しなくてはなりません。ここが日本のデザインの現場ではうまくいっていないことが多い。ひとつにはデザインを単なる視覚表現だと狭く捉えてしまう誤解と、もうひとつには異なる環境で仕事をしている人との協力し合って仕事をすることの苦手さが理由としてあるでしょう。ただ、そんなことを理由としてあげるだけで、その理由の排除に努力しないのだとしたら、いつまでたってもまともなインタラクションがデザインされた製品は生まれてきません。

この本で、個人的なスキルを向上するためのプロセス、パターン、原則の3つのPについて学びつつ、残りの1つのPである実践がどうすればうまくできるかを考えるのもよいのではないでしょうか。
組み込みソフトやウェブなど、インタラクティブな製品・サービスの企画やデザインに関わっている方は、ぜひ年末年始の休みにでも読むことをおすすめします。読んで得することはいっぱいあっても損はないと思いますよ。拙著『ペルソナ作って、それからどうするの?』を読んでくださった方には特におすすめします。



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