もうペルソナなんて言わない

さて、1つ前の「ゴールダイレクテッドデザインとは」で紹介したゴールダイレクテッドデザインプロセスのなかでもとうぜんペルソナとシナリオが使われています。そりゃ、そうですよね。クーパーがペルソナの生みの親なんですから。

僕はこれまでペルソナ/シナリオ法という用語を使ってきましたが、今後はもうその用語は使わずに、ゴールダイレクテッドデザインという用語を積極的に使っていこうと思います。

というのは、ペルソナ/シナリオ法あるいはペルソナという言い方は誤解が多すぎるからです。
デザイン・シンキング(デザイン思考)といい、どうしてこうも流行りだからというだけで飛びついて、それが何なのか、何の役に立つのかをちゃんと自分で理解して使おうとする人がすくないんでしょうね。それでそういう人に限って間違った使い方をして、なんだこんな方法を役に立たないと言いだすことになるのだからあきれます。

ペルソナはゴールダイレクテッドデザインプロセスの一部

とにかくユーザー像のモデリングの方法であるペルソナが、ゴールダイレクテッドデザインプロセスの一部であり、インタラクションデザインの方法だと理解しない(しようとしない)人が多すぎます。ペルソナを用いた方法がどんなデザインでも有効だと考えるのはまだマシなほうで、なかにはひどいのになるとマーケティングのセグメンテーションに使おうとする人もいたりします。これはもうわけがわかりません。

ゴールダイレクテッドデザインで行うユーザー調査は質的調査なわけですから、その調査からどうやって市場のセグメンテーションができるかわかりません。仮にセグメンテーションのなかの顧客像を明確にしたいのだとしても、それがある特定の製品に関する顧客像ならまだ調査内容も明確にできますが、企業単位でうちの顧客の人物像を明らかにしたいなどと言われても、それにゴールダイレクテッドデザインの手法が適切かといえばまったく不適切です。これはもう180度正反対だとさえいえます。

市場の量的な調査と市場セグメントの分割は、製品を売るためには非常に役立つが、人々が実際に製品をどのように使うかについては大して重要な情報を与えてはくれない。特に、振る舞いが複雑な製品ではそれが顕著になる。
アラン・クーパー『About Face 3 インタラクションデザインの極意』

とクーパーは書いていますが、裏返せば、ペルソナやゴールダイレクテッドデザインは、複雑な製品のインタラクションをデザインするためには非常に役立つが、どんな人びとに実際に製品を売るのかを決めるのには大して重要な情報を与えてはくれない、ということができるでしょう。

インタラクションデザインの手法だからマーケティングに使えるわけがない

それなのに、ペルソナとマーケティングを結びつけたがる人がやたらと多いのは困りものです。

どうもその原因は「ペルソナ」といってしまうと、それがデザインの手法、特にインタラクションデザインの手法であることが見えなくなてしまうということも1つの理由としてあるのかなと思います。だから、マーケティング上の顧客理解というへんなところでの利用が想起されてしまっているのでしょう。そういう意味で僕は今後、ペルソナ/シナリオ法というこれまで使ってきた用語をやめて、ゴールダイレクテッドデザインという用語を使うことにしたんです。

断言しますが、ペルソナなんか作ったってマーケティングには役に立ちません。
もちろん具体的な商品企画やこれまた具体的なマーケティング・コミュニケーションのプランニングといった用途であれば、広い意味でのインタラクションデザインに含むことができますからゴールダイレクテッドデザインの手法を利用することもできるでしょう。

でも、マーケティングの上流工程でのセグメンテーション~ターゲティング~ポジショニングなんてところで使えるかといったらまったく役に立たないといっていいと思います。

市場セグメントとペルソナは1対1対応しない

そんなわけのわからない利用法を考えるならきちんと従来的な方法でマーケティング調査をやってほしい。そこでSTPが定まったところで、ターゲットとなる顧客層に対してポジショニングを行う製品のペルソナを作ってゴールダイレクテッドデザインすればいいんです。というか、ゴールダイレクテッドデザインを行う前にはちゃんと市場をセグメント化してターゲットも決めてポジショニングの仮説くらいはもっててくれないと誰を対象にどんな調査をすればいいかも決まらないんですよね。

ただし、ここも誤解してはいけません。市場セグメントを限定するのは、セグメントごとのペルソナを作るためではありません。

市場セグメントは、調査段階でターゲット市場のペルソナの範囲を限定するために使える。しかし、市場セグメントとペルソナの間に1対1の対応関係ができることはまずない。
アラン・クーパー『About Face 3 インタラクションデザインの極意』

これ、本当にやってみればわかります。ユーザーのゴールやそれに対応する行動パターンで調査結果を分類していくと、そのユーザーグループは市場セグメントとはまったく無関係に分かれます。これは当たり前で切り口が違うからです(「セグメンテーションとは」参照)。誰に売るかという切り口での市場セグメントと、ユーザーのゴールと行動パターンで切り分けるペルソナでは、分類の視点が異なるのだから分類結果がいっしょになる必然性はどこにもないのですから。

だからこそ、市場セグメンテーションにペルソナを用いるってのはわけがわからないことなんですね。

ほんとこのくらいのことはちゃんと理解した上で適切な手法の選択を行ってほしいものです。

 

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