
それができないとイノベーティブなものづくりってできないと思うんです。最終形が完全に見えているものしか作れないんだったらイノベーションなんて起こしようがないんですね。
- 完成形がみえるものは、きっといつかどこで見たことがあるもの
- 完成形が見えていれば、それはどう実現すればよいかを考えればよい
- まだ見ぬ何かをつくる方法は、完成形が見えている状態のものづくりとは違う方法が必要で、どう実現するかの前に、何を実現するかを考える必要がある
いまのデザインとか、ものづくりにおけるひとつの問題は、どう実現するか(問題解決)を考えて実際に作業をするのは得意な人が多いのですが、何を実現するか(問題発見)はどう考えたらいいか、どんな作業をいいかがわからず、作業を組み立てられない人が多いことだと思います。
漠然とした状況のなかに問題を発見する力がない
最近、いろんなワークショップに参加させていただいていても感じるのですが、何もないところから何かを組み立てようとすると、自分が見たものそのままだったり、普段思ってたことを表現しようとする人が多いんです。そうではなく、外部環境において適当なターゲットを設定して、その相手が求めるものをつくろうという方向から、ものづくりを組み立てられない人が多いんですね。外部環境といってもどこを見ればいいし、ターゲットを決めるといっても何をすればいいかわからない。さらに相手が求めるものといっても漠然としていて、相手の求めるものをどう見つければいいか、相手からそれを引き出すためにはどうすればいいかもわからなかったりします。
単純に、ユーザー側のニーズと組織側の必要性をひとつのデザイン問題として統合して命題化することさえもままならない人が大多数です。統合以前に、ユーザー要求や組織の目的をちゃんと理解できなかったりもします。「アイデア・素材・表現(インフォグラフィックス・ワークショップ 1に参加して)」でネタ探しの重要性を書きましたが、デザインにおけるネタ探しというのは決して自分がおもしろいと思うことを探すことではありません。ネタは自分にとっての価値ではなく、ユーザーやクライアントのために価値をもったものでないと当然だめです。
このあたりがつかめていないで、よくデザインしようなんて思うなと感じます。やれやれです。自分のためだったら仕事になどせず、趣味で楽しんだ方がいいでしょう。
阿部 最終的に自分たちの生活文化のアップデートにならなければ、本当のデザインにはならないのではないか。だから自分の好きな物をつくるのは趣味として休日に自分の地下室でやれ、と言いたい(笑)。
話が逸れましたが、結局、曖昧模糊、漠然とした状況から、単に自分がつくりたいものではなく、社会あるいは外部の人にも認められるものをつくるという方法を知らない人が少ないんですね。
曖昧模糊とした状況において、「とりあえず」という中間地点を目指す方法がいかに有効かということが軽んじられているのではないでしょうか?
問題発見も結局はものづくり
問題解決は得意だけれど、問題発見は苦手という人は、結局、最終的な完成形(つまり問題そのもの)が与えられないとものづくりができない人なんですね。何をつくるのかという問題を、客観的・説明可能な形で設定することができないんです。僕は、よくここで、ものづくりにおいては最初に目的を明確にすることが大事だとか、哲学(どんな社会をつくりたいか、どんな価値を生み出したいか)とヴィジョン(それには具体的にどんなものをつくる必要があるか)を明示することが大事だと書きますが、問題発見の方法が身についてない人は、そう言われてもその必要性はわかっても実際に何をすればいいのかわからないんだと思います。
でもね、僕にいわせれば、目的をつくるのも、哲学やヴィジョンをつくるのも、結局はものづくりのひとつなんです。だからこそ、デザインの方法を知りぬいたIDEOが同時にイノベーションの技法を有する会社でもありうるわけです。
逆に、目的がつくれない、哲学やヴィジョンがつくれない、平たくいえば、企画ができないという人は、デザインの方法、ものづくりの方法そのものがわかっていないといえます。目的やヴィジョンがデザインの対象となる人工物だとわからないというのは、その時点でデザインセンスを疑いたくなります。
見えないものをとりあえず見えるようにする
結局、IDEOの優れているところは、見えないものをとりあえず見えるようにする方法をしっかり身につけているところだと思います。「IDEOにおけるデザイン・プロセスの5段階」や「IDEOのデザインプロセス、再び。」で紹介した、デザインにおける下記の5つの段階。
- Understand(理解)
- Observe(観察)
- Visualize(視覚化、具体化)
- Refine(改良)
- Implementation(実行)
この5つの段階において、最後の「Implementation(実行)」までに至る4段階というのは、結局は「見えないものをとりあえず見えるようにする」ための4つの方法だと理解したほうがいいんです。
オブザベーションやブレインストーミング、そして、プロトタイピングといった手法はIDEO的なデザインの方法として注目もされていますし、なんとなくは知っている方もいると思いますが、僕は意外とみんな見過ごしているのが、最初の「Understand(理解)」の段階かなと思うのです。
Understand(理解):手持ちの材料だけで組み立てる
IDEOのようにイノベーションを求められる企業であれば、とうぜん、クライアントからの要求は曖昧模糊としていて、最終的に何をつくればいいかもわからなければ、当然ながらこのとおりにやればつくれるというプロセスも見えないはずです。そういう場合に、まず何をしたらよいのか?
それが理解することなんですね。
クライアントが求めているものは何かを理解する。同時にクライアントにも何を自分たちが求めているかを理解できるようするに方向性を示す。ようするに、その時点ではまったく見えないデザインの方向性を、とりあえずその時点で手に入る材料だけを使って、パッと組み立てて見せるのです。
そんなのでできないって? あのね、そんなの、クライアントが話す言葉を構造的に組み立てながら聞いてればできることです。そうやって、ちゃんと人の話を聞かないからできないんですよ。言葉は形にして理解しないと話を聞いている意味がありません(詳しくは「言葉を形にして理解する(あるいは、テーブルにもいろいろある)」参照)。
その意味で、組み立ててみせる対象というのはクライアントだけでなくて、自分自身も組み立てたものを見せる対象なんですね。まずは手持ちの材料を整理して、それで何ができるのかを見えるようにするだけでも、気づきがあります。モデル化が重要なのはそこ。だから、最近、あらためてモデル化について書きながら考えているんですね。
モデル化は、自分の頭のなかだけで整理するのではなく、文章でもアイデアスケッチでもダンボールの模型でもいいから、他人にも見える形でつくってみるところに価値があります。そうすると、気づきは自分のなかからだけでなく他人からも生じてくるようになります。あるいは、とりあえずのアウトプットを見た他人の口からもれた言葉自体が気づきになる場合もあります。
そうやって、まずはとりあえずは動かしてみる。それをやらずに立ち止まっていては一向に前には進まないはずです。
これこそが理解の方法なんですね。そして、理解とともに自分たちに何が足りないかが見えてきます。その足りないものを探しに行くのが「Observe(観察)」なんですね。
別に最初に見えるのは中間地点でいい、むしろ、それを大事にしないと
イノベーションを目指すなら、まずは自分たちがすぐにでも目指せる中間地点へ向かうことです。それをやらずに最終的な完成形が見えてくるのを待っていても、そんなときは永遠に訪れません。一歩未開の地へと足を進めることではじめて見えてくる景色というのがあるのです。最終到達地点ばかりを有難がるのではなくて、むしろ、そこへと確実に連れて行ってくれる中間地点という道先案内人こそを大事にしないといけないのです。
とりあえず行けるところまで行ってみようというフットワークの軽さ、そして、実際にそうした中間成果物を生みだす方法を軽んじているがゆえに、日本ってイノベーションが下手なんでしょうね。
ほんときれいに舗装されて、ガイドブックもあるような旅しかできない人が多いので困ります。
どう困るかといえば、10月11月は多忙すぎるという意味で。涙。
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