マーケティングでは市場をある性質によって分け、各セグメントに対して適切な戦略を立案・実施したりします。その場合、事業上において重要なセグメントをターゲットと呼んだりします。
ようするに、分けることで分かるということです。
市場なら市場全体を特定の視点で分類することで、どのセグメントが自分たちの顧客なのかを知ること。あるいは、特定の製品のユーザー群を、製品利用に対する慣れと使いこなしといった視点で分類することで、各グループごとに、どうすればそれぞれのグループにもっと使いやすいデザインが可能かを考えることができるようになります。とうぜん、ペルソナ/シナリオ法の根幹にも、このセグメンテーションの発想はあります。
(注:ただし、ペルソナ/シナリオ法そのものはセグメンテーションの方法でありません。特定したセグメントの特徴を、実際のデザインをするうえで意味のある形に表現する方法です。なので、セグメンテーションそのものは別の方法で導き出しておく必要があるということは理解しておく必要がありますね。ここは本当に誤解してる人が多いです)
ところで、ある視点で分類する、ある性質によって分ける、という際に、その視点や性質はどう設定すればよいのでしょう。今日はそのことについて書いてみます。
動物を分類してみる
例えば、動物を分類するのに、魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類といったカテゴリーを用いることができます。さらに細かな分類も可能で、両生類なら、有尾目(サンショウウオ目)、無足目(アシナシイモリ目)、無尾目(カエル目)に分けられます。
一方で、そうした生物分類学的な視点とは異なる分類も可能です。下位分類として形態によるカテゴリーを組みこむことが可能です。たとえば、体毛の有無、羽根の有無、足の有無や数など。
足の有無や数で分ければ、こんな風になるでしょう。

この場合は、魚類や爬虫類、哺乳類といったカテゴリーを上位概念として、その下を足の有無・数で分ける形です。
ただ、生物学的な分類法での、綱、目、属のようなカテゴリーは上位と下位が決まった上下関係にありますが、足の有無・数は決して魚類や爬虫類といったカテゴリーの下位概念である必要はありません。
であれば、このような分類も可能になります。

先の分類とは異なり、哺乳類であるヒトと鳥類であるニワトリ、ペンギンが1つのグループにまとめられるなど、魚類や爬虫類といったカテゴリーの境は超えられています。
分類の仕方で情報の意味は変わる
では、この分類は誰の何の役に立つか? 例えば、靴屋が自分の顧客になりそうな人はどのグループなのかを考える役に立つのではないでしょうか?普通の靴屋にとっては、既存顧客はヒトです。
であれば、顧客層を広げたい靴屋にとっては同じカテゴリーに属するニワトリやペンギンも潜在顧客になるのかもしれません。同じ2本足でも、めったに歩かないタカやスズメには靴は不要かもしれません。
さらにこの表をみていると、2本の足のヒトに2足セットの靴を売るよりも、もしかすると4本足カテゴリーの連中に4足セットの靴を売る方が売上額や利益はあがるのかもしれないと考えてみることもできます。実は4本足の動物こそ、真のターゲットでは?なんて思いを巡らせることもできます。
ただし、同じ4本足の連中でも、枝をつかんで移動したりするサルよりも、4本足は基本的に歩いたり走ったりするゾウやトラのような連中のほうがヒトの延長線で考えやすいのかもしれないとかも見えてきます。
この下の図の分類であれば、すくなくともヒト以外の顧客層を広げたいと考える靴屋には意味のある知識を与えてくれそうです。
おなじように肉屋であれば、こちらも哺乳類なのか鳥類なのかということより、人間に食べてもらえるのか、そうでないのかを先に分類したいでしょう。
実際、肉屋には牛肉・豚肉にまじって、鶏の肉も鴨の肉も売られているでしょう。カエルを売る肉屋もあるのではないでしょうか。
どう分けるのかによって分かることは変わるのです。
「いやよして」を「いや/よして」と分けるのと「いやよ/して」で分けるのでは意味は正反対であるように。
意味のあるセグメンテーションとは?
一方で、上の図の分類はといえば、一見まともな分類をしているようですが、実はこの分類が役に立つケースというのはすくないのではないかと思います。生物学者なら、リンネにはじまる生物分類学に沿った形での分類のほうが役立つでしょう。
そういう意味で、分類において、まともそうか、そうでないかという判断はあまり意味がありません。意味がない分類をすることに無駄な労力は割かない方がいいのです。
生物学上どうであろうと、靴屋も肉屋も自分たちの商売にとって意味のある分類をすればいいのです。
自分たちが知りたいことを知るためには、市場をどのような視点で分類するかが重要で、なんでもかんでも分ければいいということではありませんし、その分け方が一般的に見てもっともらしいかどうかなんて関係ありません。一般的なことを知りたければ一般的なセグメンテーションをすればいいし、一般に知られていないようなことを自分が新たに知りたければ、むしろ、一般的なセグメンテーションは避けるべきなのです。
何をしたいかがどう分けるかを決める
繰り返しましょう。分けるということは分かることです。
分かるためにはまず、分かるための分類の切り口はどうするかを見つけることが大事なのです。
切り口がパッと思い浮かぶのならそれで分けてみればいいのです。切り口が見えていないのなら、それこそ様々な情報を「まずはテーブルに載せてみなけりゃはじまらない!」のです。手持ちの情報を並べてみて、いろんな軸で分類してみながら、有意な分類の軸=切り口を見出すのです。ここで有意な、というのは、その軸で分類することで分かることが自分たちの商売の戦略を立てたり、デザインしようというものの方向性・コンセプトを決めるのに役に立つかどうかということです。
となれば、どう情報をセグメントすればよいかを考えるには、少なくとも自分たちが何のためにセグメンテーションをするのか、商売のヴィジョン、デザインのヴィジョンが見えている必要があるということです。
これは商売やデザインでなくても同じです。何をしたいかが先になければ、何を分かればいいかも決まらないし、分かるための方法も決まらないということなのです。
自分が何をしたいのかが決められないというのは、それくらい大きな影響をもたらすんですね。優柔不断に「自分が何をしたらいいのか」なんて悩んでる場合じゃないですよね。
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