100%のなかの確率を高めるのではない。その外の世界を発見するのがイノベーション

昨日、ある会社でペルソナを中心としたユーザー中心デザインについて、お話する機会をいただきました。
IDEO、apple、スタンフォード大学のd.schoolの例も引きながら、イノベーションの技法、ブレイクスルーを生み出す発想法という観点からお話をしました。

このイノベーションという観点からユーザー調査を経たデザインの手法をみた場合、鋭い勘と豊富な経験をもった人材がなぜ改めてユーザーの観察を行う必要があるのかという疑問がでてきます。十分な経験と本質を見抜く眼をもった人がなぜ再度人びとの生活や仕事のなかの行動に対峙しなくてはいけないのか?

今日はその疑問について、「編集」と「視点・在点」の2つをキーワードとして考えてみようと思います。

人びとの行動を編集する

昨日話をしたあとに思ったのは、

  • ユーザー調査を行い、その情報をもとにペルソナをつくりシナリオを描くという活動は、
  • 人びとの暮らしに取材し、その素材を編集することで、
  • 新しいライフスタイルの提案を具体的なコンテンツの形で提示する活動

なのだな、ということでした。

ユーザーを調査するというのは、まさに編集者の行う取材活動とおなじです。
事実という素材がないとコンテンツはつくれません。それはモノをデザインするのでもウェブサービスをデザインするのでもおなじでしょう。
さらに、素材とは単に物理的な材料や部品、コンテンツに含めるテキストや画像などの情報だけを指すわけではありません。それを使う人の実際の行動や目的、あるいは、それを作る人、売る人のことを理解することがそのままデザインの素材になるのです。

編集者というのは、まさにその素材を自分自身の足や目、人脈や好奇心、的確な回答を引き出す質問力や粘りづよくアタックを続ける持久力、そして、いいものをつくりたいという意欲などを総動員した取材活動を通じて、できるかぎり最高の素材をみつけているのではないかと思います。

うまい料理をつくるには、料理の腕とよい素材の両方が必要でしょう。料理だけじゃなく、ものづくりというのは、そもそもそういうものだと僕は思います。編集者にもとうぜん、その両方が求められます。
編集者ほど、素材を大事にするデザイナー(そう。編集者も立派なデザイナーです)もめずらしいんじゃないでしょうか。

視点・在点

自分の足で集めた情報を素材を編集して、コンテンツを料理する。それはユーザー中心のデザインによるイノベーションでも変わりません。
ユーザー調査を通じて発見した素材を使い、ペルソナ/シナリオという表現でイノベーションのコンセプトを描くこととなんら変わりはないのです。

ともあれ、顧客と一日過ごして何が見られるかを試してみたらどうだろう。ひょっとしたら、それが前進の一歩になるかもしれない。より優れた新しいものを作りたいと思っているのなら、ぜひとも人が格闘し苦慮しているところを見るべきだ。

ただし、誰でもただユーザーの行動を観察すればいいってわけじゃない。ユーザーにインタビューしてまわればいいってわけでもありません。

ユーザーの観察・インタビューのなかから光るダイヤの原石を発見するか、屑鉄しか発見できないかは、それこそ、取材・調査をする人の鋭い勘と豊富な経験にかかっているわけです。
視点の置き方、あるいは観察する現場への身の投じ方=在点が問題になってくる。だから、僕としては、むしろ、経験豊富で鋭い勘をもっていて、ユーザー調査をしなくてもそれなりのアイデアも出せ、平均以上のものをつくれる人にこそ、ユーザー中心のイノベーションの技法をおすすめしたいのです。

見る目がなければいくらそこにダイヤの原石が埋まっていても発見できないし、現場での立ち位置をうまいことベストポジションにもっていけるノウハウをもった人でないと、どこで何を見て聞けばよいかもわかりません。
おなじユーザー調査をすればおなじ結果が得られるとか、ユーザー調査は単に事実を知るためのものだとか思ったら大きな間違いなのです。見る人の取材力によって得られる結果は違いますし、おなじ事実でも見つけられる事実の価値も大きく異なるはずだからです。

100%のなかの確率を高めるのではない

昨日もその場でお話したんですけど、ようはユーザー調査による発見がもつ価値は、単に成功率をどれだけ100%に近づけられるかということではないんです。確率を100%に近づけるだけなら、それこそ鋭い勘と豊富な経験をもった人がどれだけ自分の考えを磨き上げられるかということに賭けた方がいい。

ユーザー中心のイノベーションの技法で、ユーザーが生活する現場、働く現場に身を置いて観察を行うのは、100%を目指すのとは違い、いままで使っていた100%という枠組みそのものの外側に新たな価値の枠組みを見つけることなのです。つまり、これまでの価値基準自体を転倒させるようなイノベーティブな価値判断基準を発見し、それを形にすることなのです。

ユーザー自身も見えてない"穴の輪郭"を発見する

イノベーションのネタになる発見を取材に出かけることこそが、ユーザー調査の本質です。
それは決してユーザーの意見を訊くことでもなければ、自分のやりたいことを押し殺してユーザー本位に物事を考えるということでもないのです。

エグゼクティブはとかく、弊社は顧客の声を聞いていますと言いたがる。つねに改善の余地がある世界では、顧客の声を聞くことも大事だが、それはどちらかと言えば未来を予測するよりも現在を評価するのに役立つ。確かに、詳細なアンケートは顧客の満足度を評価するのには有効だが、最も画期的なイノベーションが顧客に質問することから生じるとは、私たちには思えない。

そう。顧客の声を聞くことは現在の評価~改善にしかつながりません。顧客が意識的で、自分の口で答えられるようなことを見つけても未来はつくれません。そうではなく、顧客自身もわかっていないことを見出すことが、イノベーションのためのユーザー調査に求められていることなのです。

すこし前に書いた「空中に空いた穴の輪郭」を見出すというのは、まさに編集者の粘り強さを備えた編集力で、ふつうの人には見えないイノベーションの種を見つけ出すことにほかなりません。
ペルソナ/シナリオとは、そのタネを用いて咲かせた花でしかないのです。タネがなければ花など咲くはずもないのですから、何より大事なのは観察することだということです。そして、見つけようという執念、粘り強さですね。
ペルソナとは別のところで、エスノグラフィ的な調査をじっくり時間かけてやってみるという体験も一度してみたいですね。

そして、何より忘れてはいけないこと。
それはイノベーションとはひとりで起こすものではないということでしょう。

イノベーションは究極のチーム・スポーツである。すべての役割に、それぞれの分野で最高の仕事をさせれば、イノベーションを推進する前向きの力が生まれる。

必要なのは重要な発見をする優秀な編集者だけではなく、その発見の種を大事に咲かせるためのほかのメンバーの力も欠かせないのです。

  

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