参加型の創造の場としてのワークショップ

先日の横浜ワークショップ2008フォトカードソート・ワークショップをはじめ、最近、いろんなワークショップの場に顔を出しています。この傾向はこれからも続いて、今月の27日にはインフォグラフィックスの木村さんが主催するワークショップにオブザーバーという名の雑用係で参加しますし、すでに告知したとおり、10月18日と25日の2日間でユーザー中心デザインに関するワークショップの講師をします。

仕事の場でのワークショップ

こうしたどちらかというと個人的な活動以外にも、仕事でもペルソナを中心にしたユーザー中心デザインを行う際には、お客さんといっしょになって作業をするワークショップを行っています。

  • ユーザー調査の結果をもとに、インタープリテーション・セッションと呼ばれるワークショップでユーザーの行動とその背景を5つのワークモデルを使って構造的に分析する作業。
  • そのモデル図を使って明示したユーザー行動を類似のパターン別にグループ化し、ペルソナの骨格を抽出する作業。
  • さらに骨格に人間らしい肉付けをしてペルソナを描き、さらにそのペルソナが製品を利用する際のインタラクション・シナリオを描く作業。

こうした作業をワークショップを通じて、参加者全員で考え決めていくのです。ワークショップという場の共有、作業の共有によって、創作に必要な知が経験的にメンバーに共有されますので、アイデアを出す効率は高まりますし、繰り返しの説明に時間をとられることもありません。
このあたりのことは詳しくは『ペルソナ作って、それからどうするの?』のなかで、これでもかというくらい紹介していますので、興味のある方は読んでいただけると幸いです。本の中でもこういう方法を「みんなで手を動かしながら考える、ワークショップベースのデザイン」と呼んでいます。



もちろん、ワークショップのなかで「説明/質問という枠組みを応用した情報デザインの5つの手法」で紹介したような、アクティングアウトやシャッフル・ディスカッションといった手法を取り入れるとさらに参加者の思考とコミュニケーションが活性化されて効果的です。
ペルソナのシナリオを描く際にも、複数のグループが異なるペルソナのシナリオを考え、それをあとで別のチームに説明させるとシャッフル・ディスカッション同様の効果が得られます。

ワークスタイルを協働作業ベースに変える

僕としては、ワークショップというのは確かに学びの場としても向いているんですけど、それ以上に仕事の場として向いていると考えています。
協働作業を通じてたがいに学び合い、そのなかで協働で1つの成果物を生み出すことができるのですから、その方法が仕事に向いていないわけがないのです。

ただ、ワークショップを仕事に創造の場として導入する場合に、1つ乗り越えなきゃいけないのは、普段デスクのパソコンに向かって何も考えずにモニターを眺めていることに慣れてしまった人に、頭と身体を使って一定時間作業するように仕向けるよう、ワークスタイルを根本的に変えなくてはいけないことでしょうか。

ようは仕事をしている気にはなっているけど、実はひたすら誰かに説明するための資料を自分一人でパソコンの前で作成する作業に時間を取られているだけということが普通の仕事の現場では異常に多い。しかも、その異常さにほとんど誰も気づいていません。
でも、考えてみてください。最初から説明をしなければいけない相手と協働で作業を行っていたなら、そんな説明のためだけに必要な資料もそれをつくる時間もいらないわけです。そんなコミュニケーションのためだけの資料をつくる時間があったら、本来つくるべきものをつくる作業に時間を費やした方がいいはずです。

それがどういうわけかいまのワークスタイルでは、協働作業による創造の作業よりも、説明や伝達などのコミュニケーションに費やす間接コストが多くなりすぎているのに、そのことをすこしもおかしいと思っていないという異常さがあります。
ちょっと口でいえばいいことまでメールでやり取りされ、そんなメールを処理するのに非生産的な時間が浪費されていくわけです。

そんな無駄なことばかりが多すぎるから仕事の場がいつまでたっても創造的にならないんです。それは個々人の創造力の問題ではなく、組織における仕事の組み立てに問題があるのだし、そもそも協働作業によって創造性がどれだけ発揮されやすくなるかということが理解されてなさすぎるのだと思います。



参加者の役割

とはいえ、ただ仕事をワークショップベースに変更して、なんでもかんでも協働作業にすればうまくいくかといえば、そんなことはありません。

1つには、参加者ひとりひとりが主体性をもって、目の前の課題を解決しようと意欲をもち、実際に積極的にアイデアを出したり、作業を行うことができるメンバーを集めなくてなりません。これは現時点では大変です。ワークショップの体験がある人でなければ、協働作業のもつ力がわかりませんから。

また、もう1つには、協働作業ですから、たがいに刺激し刺激されながらの相互作用が生まれないと、グループワークをしている意味がありません。「質問ができる人/できない人」で書いた質問することの重要性はまさにそこにあります。質問することが他人を刺激し、創造の場の雰囲気をつくるのです。ですから、ワークショップ内に意図的に質問がでる仕掛けとして、シャッフル・ディスカッションのような手法を用いるとよいのです。

横浜ワークショップ2008の参加者のひとりがこんなことを書いていました。

机に座り教師が教えるのではなく、コツだけ教えてやってみて、失敗して、疑問がでたらヒント集めて、またやってというような、いわゆる教育のイメージではなく、ある種教える人と教えられる人がころころ入れ替わったり、共同作業の中で学んでいく形が何か無いのかなと。

まさに、そのとおりで「教える人と教えられる人がころころ入れ替わ」ることこそがグループワークで大事なこと。
「参加」というのがキーワードです。作業に参加しているのだという姿勢を行動で示さなくてなりません。「「連」という創造のシステムを夢想する」で紹介した江戸の創作の場である「連」のように、ただ、そこにいることで参加者として保証されるのではなく、「実際の働きによって保証される」のでなくてはいけません。オペレーションせずにドライブせよ!です。外から操作するのではなく、車に乗り込むように場の内側に入り込んでドライブするのです。相手にするのはマニュアル通りの操作をしないと動作しないコンピュータではなく、もっと柔軟性が高く期待以上のものを返してくれることもある人間であるほかの参加者なんですから。

実際、ひとりでも外から眺めているだけの傍観者がいると場の雰囲気が壊れます。ワークショップの参加者には、ほかの参加者の創造性を刺激するという役割があるのです。そのためにも誰かひとりでも口火を切ることが必要。

見学者の矢野さんもこんな感想を書いています。

描いて書いてしまえば、その時点でそこにいる人たちが考えているある程度のことをささっと共有できると思います。一人ずつ発言していってもよいのですが、人数が4、5人いれば話すの好きな人、遠慮しちゃう人いろいろいるのでまずは「えい!」ってアウトプットしてしまうのもありだと思っています。順番に話をすると時間もかかりますしね。

簡単なものでいいので物理的なアウトプットがあれば会話ははずみます。これとかあれとか指さして話せるので会話も楽。これは何?という質問からでもコミュニケーションは生まれて、アイデアが広がることもあります。ワークショップではこうした相互作用をいかに起こすかが大事。それには参加者ひとりひとりのアクションが重要なんですね。
ワークショップというのは、そんな風にして自分ひとりだけではできないことを、ほかの参加者との協働作業で可能にする場なんです。

参加してもらう側の役割

もちろん、それだけではうまくいきません。横浜ワークショップ2008がうまくいったのは、参加者がみな主体性をもって取り組んだことだけでなく、会場班や記録班のスタッフの準備がしっかりしていたからでもあります。

ワークショップでは主体性と相互作用が重要だとはいえ、やみくもに人を集めて、「さぁ、主体的にやろう!」「もっと相互作用を出して!」とハッパをかけただけではうまくいきません。
ワークショップを成功させるには、誰を集めてどのようなテーマで話し合うのがよいか、皆が話しやすい雰囲気をつくるにはどうしたらよいか、与えられた時間をどう過ごすのがよいか・・・等々を、事前にしっかり設計する必要があります。参加しやすくなる仕掛け、協働を促す仕掛け、想像力を解放する仕掛けがあって初めてワークショップが豊かな場となります。
堀公俊『ワークショップデザイン 知をつむぐ対話の場づくり』

そう。協働を促す仕掛けがなくてはいけません。シャッフル・ディスカッションしかり、中間発表や結果のプレゼンテーションの場しかり、アイデアを刺激する講義の挿入しかりです。

また、せっかく作業に没頭している参加者の気をよけいなことに逸らさせずに、作業に没頭してもらえるよう、会の運営に問題がないか、運営プランをあらかじめインスペクション(認知的ウォークスルー法などを応用)してきちんとダメ出ししておくことも大事です。このような場合、参加者はこうするだろう。だから、こういうものが必要になるという運営設計をしておくのです。

それがワークショップに参加してもらう側の役割です。
その役割を主催者側のスタッフがすごくがんばってやってくれたので、横浜ワークショップ2008は大いに活気ある創造の場になっていたと思うし、だからこそ上に引用したような参加者の声にもつながっているんだと思います。

組織の創造性を高めるために

こんなワークショップという仕事の仕方がもっと取り入れられていけばよいと思います。
そうすれば、また、いまとは違ったデザインができたり、違うものが生まれてくることも多くなるはずです。

本来、総務人事はそういう場を企画し演出するというのも仕事のうちなんじゃないかなと思ったりします。そのくらい会社を上げて「組織の創造性を高めるためには具体的にどんな変革が必要なのか?」ということを今後は考えていかなくてはいけないのではないでしょうか。
そもそも本来的には、組織というのはワークショップの場で起こるような個々人の主体的な行動や、個人間の相互作用による生産を、意図的に仕掛けとして組み込んであるようなシステム=組織であるはずなんですけどね。それがいまうまくまわっていないのであれば、やっぱり何かしらの変革を考えていく必要があるでしょう。

そういう意味でも、仕事の仕方というのを、もう一度、根本的に見つめなおしてみてもいい頃合いだと感じます。

 

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