説明/質問という枠組みを応用した情報デザインの5つの手法

質問ができる人/できない人」では、学ぶという視点から質問することの重要性について書きました。これは質問する側だけではなく、質問される側にとっても有益です。普段の生活でもあることだと思いますが、質問されてそれに答えることで、質問された側もより理解が深まるということは少なくありません。

人間の想像力/創造力の基盤にあるのが、この質問する/説明するということを含んだコミュニケーションだと思います。自分ひとりのなかで考えてもそうです。自分が何かを理解するということは、自分に対して納得のいく説明ができるようになることを含んでいるからです。

説明/質問とインタラクション・デザイン

そして、機器・システムと人間のコミュニケーションを含んだインタラクション・デザイン、情報デザインの分野でもとうぜん、この説明/質問という関係は大いに考察の対象となります。利用可能なデザイン、使いやすいデザインにするためには、機器と人間のあいだでコミュニケーションが成り立つかが課題の1つになるでしょう。

『ペルソナ作って、それからどうするの?』のなかでも紹介している、ノーマンの「行為遂行の7段階理論」をみてもそうです。



機器側のメッセージはユーザーに正しく伝わり、ユーザーは正しい意図をもって行為ができるか。また、ユーザーの行為に対して、機器側はその行為が正しい場合でも間違っている場合でも、場面に応じた適切なフィードバックをユーザーに返すことができるか。

こうしたことを踏まえて機器の設計を行うためには、とうぜん、特定の利用シーンでのユーザーと機器とのインタラクション、コミュニケーションをデザインする側がイメージできていないといけません。説明~質問を組み立てられる力があるかどうかというのは、このようなインタラクション・デザイン、情報デザインを行う上でも必要な能力です。

ユーザー中心デザインのなかのコミュニケーションを重視した手法

というわけなので、とうぜん、ユーザー中心のデザインの方法には、このコミュニケーションを重視した手法が用意されています。もともとISO13407:人間中心設計の考え方が、デザインのプロセスのなかで、デザイナーとユーザーのコミュニケーションを通じて最終的なデザインをつくりあげていくことを前提としています。ですので、そのプロセスをまわすために考案され利用されている手法においても、ユーザーと機器とのコミュニケーションをどう捉えるかということに関する具体的な方法が提示されています。
ペルソナ/シナリオ法ももちろん、そうですし、ユーザーテスト法に関しても、コミュニケーション、インタラクションをどう捉えるかという視点が中心になっています。

今日はペルソナやユーザーテストなどのお馴染みの手法ではなく、どちらかというと地味ではあるけど、デザインをする上では非常に効果的な5つの手法について紹介しようと思います。

紹介するのは以下の5つです。

  • アクティングアウト
  • 認知的ウォークスルー
  • オズの魔法使い
  • シャッフル・ディスカッション
  • リフレクション

では、長くなりますが、1つ1つ順番に。

手法1.アクティングアウト

デザインしようとするモノの立場になって、インタラクションを演じてみることで、モノに求められるインタラクション要件を考えるための手法。

やり方
対象となる機器、システム内部での情報機能を情報活動全体として捉えて、いくつかの利用シーンに応じてその活動を演じる。演じた経験を元にして、対象となるモノの情報機能の形を描く。
実施の方法
対象となる機器やシステム内部での情報の働きを目に見える形として表現する。それによって機器やシステムを活用する際の活動全体を把握する。
  • 対象とする機器・システムを決める。機器・システムのどの活動をアクティングアウトの対象にするかを決める
  • シナリオをつくる
  • 配役を決める
  • 演じる
  • 実演後のリフレクション(リフレクションについては後で)
  • 演じられたものの構造をディスカッションにより把握する
  • 再演
  • システムのシナリオ、構造をまとめる

ここで紹介する手法のいずれにもいえることですが、このアクティングアウトという手法も応用範囲が広いです。基本は上に書いたように、機器やシステム内部での情報の動き・働きを演じてみて、それを理解するためのものですが、配役のなかにユーザー役の人を含めれば、利用シーンのシミュレーションにもなります。
先日の横浜ワークショップ2008でもいくつかのチームが自分たちが作成した地図の利用シーンを説明するために、このアクティングアウトの手法を使ってプレゼンテーションしていました。



手法2.認知的ウォークスルー

ユーザビリティ・インスペクション(ユーザビリティ評価)の手法の1つ。デザインの対象となる機器やシステムを利用するユーザーの視点に立って専門家が評価を行う手法。

やり方
事前にマニュアルを読んだりトレーニングを受けたりすることなく、使いながら操作を理解していく際の認知モデルである探査学習理論に基づき、ユーザーが実行するタスクの各プロセスごとに、以下の4つの探査学習ステップをそれぞれ評価する。
  • 目標設定:ユーザーはいま何をするかを設定する
  • 探査:ユーザーは目の前のインターフェイスに対してどんな操作を行えばよいかを探索する
  • 選択:ユーザーは自身のタスクを進めるために、目の前のインターフェイス上で最適と思われる操作を選択、実行する
  • 評価:ユーザーはシステムからのフィードバックを解釈して、自身のタスクが間違いなく進んでいるかを評価する

あらかじめ準備した操作手順(タスク)に従って、各画面ごとに先の4つの探査学習ステップをそれぞれOK/NGで答えていく。
実施の方法
  • 想定ユーザー像をイメージする:実際に利用するユーザーの経験や技術力などを設定
  • 分析を行うタスクを絞り込む:分析対象となるタスクを絞り、かつユーザーが利用する際に想定される主要なルートのみを評価の対象とする(イレギュラーなエラーは範囲外に)
  • 操作手順と画面を定義:対象としたルートをユーザーが通る際の操作手順およびそれぞれの画面を明示する
  • 評価の実施:タスクに従って各画面を「ユーザーは目の前のインターフェイスで何をするかわかるか?」「ユーザーは目の前のインターフェイスを見て、その操作方法を正しくイメージできるか?」「 ユーザーは目の前のインターフェイス上で、自身のタスクと操作手順を正しく関連付けて実行することができるか?」「システムからのフィードバック情報を元にユーザは自身のタスクが順調に進んでいるかわかるか?」の4つの質問でそれぞれOK/NGを判定する。

詳しくは以前に書いたエントリー「認知的ウォークスルー」を参照。

手法3.オズの魔法使い

作成したペーパープロトタイプなどを用いて、モノを演じる側、ユーザーを演じる側が特定の利用シーンをシミュレーションする手法。ある意味では、アクティングアウトと認知的ウォークスルーをいっしょにしたものと捉えることもできます。

やり方
まずシミュレーションに用いるペーパープロトタイプを作成。このペーパープロトタイプを用いて、ユーザーを演じる役割の人とシステムを演じる人が特定の利用シーンのシミュレーションを実施。ユーザー役の人とシステム役の人によるインタラクションを通じて、UIの問題点や必要なフィードバックなどを検証する。
実施の方法
  • UIのプロトタイプを作成する
  • タスク・シナリオを用意する
  • ユーザー役、システム役の配役を決める
  • シミュレーションを実施する
  • シミュレーションを通じてUIを評価し、問題点を抽出する
  • ディスカッションを通じて問題点、改善案を検討する

オズの魔法使いは、ペーパープロトタイピングの一部と考えてよいと思います。手を動かさずに頭のなかでうんうん唸ったり言葉だけの議論に時間をかけすぎずに、どんどん作りながら考える方法の1つです。

手法4.シャッフル・ディスカッション

デザインを行っているメンバー以外の人に、自分たちがデザインしようとしているものを説明し、相手に意見や質問をもらう手法。他人に説明することで自分の考えていることがまとまったり矛盾に気づいたり、また、相手の質問で他人がどう誤解する可能性があるか、どこがわかりにくいのかなどの気づきが得られます。まだプロトタイプの作成までには至らない、デザインのコンセプト作成段階で行うと効果的な方法です。

やり方
とりあえず他人に説明できるレベルまでコンセプトを落とす。コンセプトは完全に固まっている必要はなく、迷いがあれば、具体的に何と何で迷っているのかを説明して、相手の意見を聞く。言葉のみで説明してもよいし、コンセプト・シートやラフ・スケッチなどを用いて説明してもよい。
実施の方法
  • 説明のための準備を行う
  • デザインしたメンバー以外の人に協力してもらい、その人に自分たちが考えているデザイン・コンセプトを説明したり、ラフ・スケッチを見せる
  • 説明したあとに相手の意見や質問を受ける。意見や質問のうち、その場で答えられるものは回答を行い、さらに質問があれば受ける
  • それを何人かの人に繰り返して行う。想定されるペルソナが用意できているのであれば、ペルソナに近い相手とそうでない相手に説明を行い、差異を見たりしてもよい

シャッフル・ディスカッションは、デザインコンセプトの作成が煮詰まってしまった状態でやると効果的なようです。先日の横浜ワークショップ2008でも、コンセプトの状態で煮詰まってしまったチームがシャッフル・ディスカッションを通じてブレイクスルーできていたのを見かけました。



手法5.リフレクション

自分たちの行動、思考を客観的に反省すること。これはもう手法というよりも基本動作に近いのかもしれません。ただ、デザイン作業の適切なタイミングで、具体的にリフレクションのレポートを作成する作業を入れることで、煮詰まってしまったアイデアを客観的に見つめなおす機会にもなります。いったん、違った視点から考えることになるので、そこで頭の切り替えができたりもするので、意外と効果的。特にシャッフル・ディスカッション同様に、リフレクションのアウトプット自体を他人に説明させると、自分がそれまで何を見落としていたか、どんな思い込みをしてしまっていたかに気づけます。

やり方
特に決まったやり方があるわけではないが、あらかじめ用意した項目を埋めるような形式でレポートを書く形が、外からの客観的な視点で自分の行為・思考を見直す機会になるのでよい。


このエントリーのまとめ

ここで紹介した5つの手法はいずれもインタラクションデザインや情報デザインの分野以外にも応用可能な方法だと思います。

サービスの企画を行う際や、社内での業務プロセスを検討する際にも、システム・ルールとそれに関わる人間とのコミュニケーションを検討する方法として有効です。もっと身近なところでも自分たちのアイデアが客観的にみて理解できるか、あるいは、実際にそのアイデアを実現するうえで利用上の問題がないかを検証してみるのにも、どれも気軽な手法だと思います。

これらの手法を「思いやり」という言葉で理解することもできますし、他人やシステムの立場を模倣することで問題を自分に落とし込んで考える方法という風に理解することも可能でしょう。ようは自分とは違う視点で見ることができる想像力/創造力を駆使する方法ということです。
自分たちの想像力/創造力を鍛えるためにも、繰り返し使ってみて損はない方法だと思います。

   

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