17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義/松岡正剛

あー、この本が売れてる理由がよくわかりました。本屋でたまに見かけて、なんでずっと平置きされてるんだろ?とかなんとなく思ってたんですけど、読んでみて理由がわかりました。

松岡さんの本では一番読みやすく、かつ松岡さんが他の本で言っていることがわりと集約されてるんですね、この本。

この本、買ったのは結構前なんです。この続編にあたる『誰も知らない 世界と日本のまちがい』を読んだのが今年のはじめ。それを読み終わるかどうかという時期にこの本も買っていたはずなんですね。でも、買っただけでなんとなく読まなかったんですけど。
それがこのあいだ、『山水思想』を読んでみて続けて、松岡さんの本を読みたいなと思い、読みはじめたんです。

この本は帝塚山学院大学・人間文化学部向けに行われた講義を再編集して収録されたモノ。5回の講義の体裁でまとめられてますが、ほとんど通勤などの電車のなかで読むだけでも3日で読み終えることができました。
あまり日本についても世界についても知識がない学生向けにていねいに説明されているので、大人が読んでも読みやすい。しかも、ある程度、松岡ワールドが要約されている感じがまたよいな、と。



編集的視点で世界(の関係性)をみる

内容的には、まず第一講では、編集という関係性をみてそれを組み換える技術と、人間という生物の進化との関連の話。

人間とは何かといったら、生物です。すべての人間に共通していることは「生きている」ということですね。生物とは何かといえば生命です。生命体です。その生命とは何かというと、一言で答えるとすると「情報である」ということができることを考えてほしい。
松岡正剛『17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義』

そして、そうした編集的視点で世界をみるということで、物語のしくみと宗教のしくみに焦点をあてて、ユダヤ教、仏教、キリスト教がどんな背景で、どんな風に誕生し、物語とともに編まれて広がっていったのか。そこにユダヤ教・キリスト教的なものと仏教的なもの、さらに儒教や道教を追加しつつ、西洋と東洋の2つの違いについてわかりやすく見せてくれます。ここまで第三講。

第四講では、日本の話となり、『日本という方法』でも語られているのに近い内容を要約して、神話の時代から中世の世阿弥の時代、ようするに戦国時代突入前夜の室町時代あたりまでを追いかけます。そこでも日本がどのように外来のコードを編集して、日本独自のモードをつくったのかという「方法」的な視点で、歴史の流れが語られます。

日本とヨーロッパをつなげる

そして、最期の第五講では、そんな日本とヨーロッパをつなげる試みがなされます。最初で編集というのは関係性をみることといっていたのが、ここであらためて実践されるんですね。ルネサンス以降のヨーロッパと安土桃山時代以降の日本がつなげられる。

エリザベス女王と信長は1歳違いで、そこでヨーロッパでも日本でも絶対君主の登場とともに近代国家というものが立ち上がってきます。さらに「バガボンド(放浪者)の経験知」で『ロビンソン・クルーソー』に代表される18世紀イギリスのピカレスク・ロマンを例にして紹介したように、絶対君主が立つことで乱世から社会が安定した方向に進めば、交通が整備されて、ヴェニスの商人や信長の楽市楽座や利休を生み出すことにもなる堺の商人みたいな商業の活性化がみられ、そこでそれまでとは異なる文化が発展するようにもなります。シェイクスピアのグローブ座や歌舞伎の舞台では劇場のなかで世界をスペクタルに見せるということが同時に起こってくる。

ルネサンスからバロックへ

さらにそうしたルネサンスの世界のあとには、二焦点的な楕円のバロック世界がはじまる。ヨーロッパでケプラーが惑星の楕円軌道を発見すれば、日本では古田織部が歪んだ沓茶碗を焼く。まさにルネサンスの利休からバロックの織部への変換が起こります。

こういう専制君主たちにはいずれも、権力を握ってまもなく宗教情報を完全に押さえコントロールした、という共通点があります。(中略)人間文化のすべてが全知全能の一人の神につながるという世界観が崩れ、中心からそれていく文化になり、新たにたくさんの中心をもつ文化が生まれていったのです。それがバロックだったわけですね。
松岡正剛『17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義』

バロックに入った世界は、ヨーロッパでも、日本でも「もうひとつの世界」を夢見るようになります。大航海時代が訪れ、シェイクスピアの「世界劇場」や歌舞伎小屋や遊郭に民衆が熱中するようになります。

と、まあ、こんな感じですごく読みやすい文章で、一気にヨーロッパと日本の歴史が紹介される。これまで読んだ松岡さんの本と重なる部分が多かったけど、それでも僕もおもしろく読めました。あらためて整理することもできましたし。

そういうわけで松岡さん初心者にはちょうどいい本なのかなと思います。ぜひ夏休みにでも読んでみてください。おすすめ。



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