6500円と高くて、分厚い本ですけど、ペルソナ本を書いた人としては、これは持っておかないとダメでしょうと思って購入(基本的に「本は「欲しい」という前に買え」というスタンスなので)。
この本が潔いなと思うのは、もはや「ユーザー中心デザイン」なんてことすら言わずに、デザインプロセスをユーザー理解からはじめてる点。インタラクションデザインするならユーザー理解~ペルソナからはじめるのなんて当然でしょという感じでさらっと流してる点は好感触。
はやく日本もそのレベルにならないとだめでしょ。
構成と内容
構成としては、大きく以下の3つに分かれています。- ゴールダイレクテッドデザインを学ぶ
- 振る舞いと形態のデザイン
- インタラクションのディテールのデザイン
まだ、パラパラとめくってみた程度ですが、内容的には、1章以外は「読む本」というより、必要に応じて「参照する本」という印象です。
1章の「ゴールダイレクテッドデザインを学ぶ」でデザインプロセスとして、ユーザー理解:質的調査~モデリング:ペルソナ作成~デザインの基礎:シナリオと要件抽出~デザイン:フレームワークと精緻化という流れが紹介された上で、2章でインタラクションデザインにおける形態と振る舞いの関係に関して詳細に述べられ、3章ではさらに「アンドゥ」「ファイルとセーブ」「データ入力」「ポイント、選択、直接操作」などの項目ごとにデザインのディテールについて考察されています。
図版も、Wiindowsのデザインパーツを中心に適切な量で紹介されていて、僕の『ペルソナ作って、それからどうするの?』以上に、ペルソナを作成したあとの具体的なインタラクションデザインの作成の仕方について具体的に紹介されています。
『ペルソナ作って』との相違と類似
2冊の違いは、- 僕の本のほうは、リクワイアメント・エンジニア(要求開発)の職能をもつ著者が、HCDプロセス全体を俯瞰する視点で、ユーザー理解からデザイン対象に求められる要件を抽出し、デザイン全体の概観をモデリングする点に注力。どちらかといえば上流工程に重点をおく。
- 一方、こちらは具体的なインタラクションデザインに関わる著者が、ユーザー視点から実際のインタラクションのデザイン(振る舞いと形態)を行う視点で、具体的なインタラクションをデザインする注意点や項目ごとにデザインのディテールを決める際の考え方・方法に注力。どちらかといえば下流工程に重点をおく。
違いを書けば、こうなるのですが、どちらも上流/下流を押さえていますし、ユーザー理解のためにペルソナ/シナリオを作成し、そこから要件を抽出してデザインの骨格をつくる点など、類似する点も結構あるように感じます。
ペルソナ作成を含めた全体の流れは僕の本のほうが詳しく書いてありますが、そこから抽出された要件をいかにインタラクションデザインの振る舞いや形態に落とし込むのかというところは、こちらのほうがはるかに詳細に書かれていますので、僕の本を読んで、さらに「それからどうするの?」と思った実際に具体的なデザインを担当されている狭義のデザイナーの方には、ぜひおすすめしたい一冊です。
まだ、読んでない方もぜひごいっしょにお読みいただければ幸い。
違いをもう2つほど
僕の本と比較しての違いはあと2点。1つは、この本が翻訳本であり、かつグローバルなインタラクションのデザインの手法を紹介しているのに対して、僕の本は最初から日本の読者を想定して、かつ日本型のUCDの手法を紹介している点。
そして、もう1つは本の大きさ。これですよ、これ。

僕の本もamazonでは(大型本)なんて書かれてますが、それどころじゃありません。さすがにこの大きさだと持ち歩いて電車のなかで読むというわけにはいきませんね。
ペルソナとインタラクションデザイン
ペルソナとインタラクションデザインということでは、以前、「ペルソナを描く目的は人とモノとのインタラクションをデザインすること」というエントリーを書きましたし、来週のセミナーではインタラクションデザインの手法としてのペルソナ法を使ったデザインの方法についてケーススタディをベースにお話する予定です。振る舞いと形態、そして、この本で扱われているかわかりませんが情報構造を抽出するためのデザインの方法としてペルソナ/シナリオ法を使いこなすことができるかというのは、これからのデザインのポイントの1つだろうと思うわけです。
その意味では、この本も必須の一冊です(もちろん、僕の本も)。
詳しくはまた読後にでもご報告。
関連エントリー
- 『ペルソナ作って、それからどうするの?』発売開始。TB&コメントはこちらへ
- ペルソナとISO13407:人間中心設計プロセスの関係に関するまとめ
- ペルソナ:誰のために何をデザインするかを明示する手法
- ペルソナを描く目的は人とモノとのインタラクションをデザインすること
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