だって、みんな、考えて実行する方法を知らないし、学生は学校で教えてもらえてないもん。天才ならその方法を自分の人生経験の中から身につけるのですが、凡人には教えてあげないといけない。あるいは、自分で体系化された方法を学んで、やってみる必要があると思います。
でもね、その方法って実はすごく単純で、すでに体系化されてるんですよ。つまり、それがPDCA。
噛み砕くと、以下の5段階のプロセスです。
- 決める
- 調べる
- 考える
- やってみる
- 反省する
プロセスとして書けば、たったこれだけ。やることの規模感は大なり小なりあっても、この5つの段階のプロセスで、考え、実行すればいいんです。「デザイン思考」とかいいますけど、ようはものづくりやデザイン、何かを企画し実行する際の基本のプロセスはこれです。「当たり前ですけど、バラつきはクリエイティブでもオリジナリティでもありません」ではちょっと小難しく書きすぎて理解されなかったようですけど。「プロジェクトをデザインする」も単にこのPDCAを細かく分解して、タスクをリストアップしただけですから。基本なんです、基本。
『ペルソナ作って、それからどうするの?』でつくった8段階のユーザー中心のWebデザイン・プロセスだって、結局はPDCAです。Webのデザイン、そして、ユーザー視点でデザインというところにフォーカスして、詳細に方法論として落とし込んでいるだけで、単純化してしまえば、上に書いた5つの段階と変わりません。
本当はすごく単純だし、覚えれば、発想や実行がラクになるものです。なのに、なんでそれを教えたり、自分で学んだりしないのか。
まぁ、理由はPDCAが考えて実行する際の基本のプロセスだっていう認識がないからなんでしょうけど。
1.決める
何をするかを最初に議論しないとはじまりません。何をするかについて話し合わなければ、「プロジェクトをデザインする」ことだってできないでしょう。で、何をするかを考える際に大切なのは、することって実は2つしかないってことを理解することです。
- 改善する
- 新しく作る
この2つしかやることってないんです。あともう1つだけ加えれば「壊す・捨てる」があるくらい。
まず、自分たちがやるのはリデザインなのか、デザインなのかを決めることです。
そしたら、何をリデザイン/デザインするのかの対象を決めればいい。リデザインなら対象がある程度決まってるでしょう。対象が決まれば、何のためのリデザインなのか、ゴールは何なのかを明確にします。
デザインの場合も現時点で対象となるものは存在しなくても、対象について考える方法が2つあります。
1つは自分たちが得意なのは何なのかということから決める方法。技術主導のアプローチですね。シーズ発想といってもいいでしょう。もう1つが社会を、人々の暮らしや仕事をどう変えたいかという方向から発想する方法。こっちがユーザー中心のアプローチ。基本はこの2つだと思っていい。もちろん、2つの組み合わせでもいいです。
そういう視点から何を行うのかの対象を決めていく。制約条件を見つけていくわけです。
新しいものをつくるデザインなわけだから、当然、既存にあるものをもう1回つくっても仕方ありません。これが1つの制約。技術主導であれば技術そのもののスコープが制約に使えますし、人々の暮らしのどの部分を変えたいかが決まれば、そこからいろんな制約が決まってくるでしょう。
そうやって、プロジェクトの対象を決め、スコープを決める。それにあわせてスケジュールや予算、人的リソースなどの制約も確認すれば、それをどう使うかで計画できるでしょう。
このように、何のためにやるか、何をしたらゴールかが最初に議論されなければ、実際にどうやるか、どういうものをつくるかなんて話ができるわけないですよね。
2.調べる
最初に何をやるかという議論していれば、とうぜん、その時点ではわからないことがたくさん出てくるはずです。確認して把握しなければいけないことも見えてくる。技術主導であれば技術の最新動向や他社が類似の技術をどのように活用しているか・活用しようと進めているかなど調べる必要があるでしょうし、ユーザー中心のアプローチなら現在のユーザーの生活や人間そのものについても理解する必要があるでしょう。自分たちがどうしたいかが最初に「決まる」から、何を「調べる」必要があるかもわかってくるのです。ユーザー中心のデザインで「はじめに調査ありき」という話をすると、必ずといっていいほど、「何を調べたらいいかわからない」とか実際に調査をしてもその結果が何なのかが理解できない人がいたりします。それも最初に自分たちが何をやるのかを十分議論していないからだったりします。自分たちが解決すべき問題が見えてなければ、解決のためには何が必要かを知るための調査がわからないのは当たり前です。
前にも(「書かなきゃ自分が何がわかっていないかさえわからない」)書きましたが、大事なのは自分たちが何をわかっていないかを知ることです。何がわからないのかがわかっていないからこそ、自分たちがわかっていることまで曖昧になってしまい、すべてが曖昧模糊としたままの状態で時間ばかりが浪費するのです。
3.考える
自分たちが何をやるかを「決める」こと、そして、そのために理解しておかなくてはいけないこと、知っておかなくてはいけないことについて「調べる」ことをしてはじめて、自分たちがどうやってそれをやるかをきちんと考える・議論できる段階になります。いわゆるコンセプトを決める段階。明確になった問題をどうやって解決するかの具体的な方法をデザインする段階です。
そのためにはまず調査で集めたデータを分析・整理することが大事です。調べてわかった事柄を構造化して整理することで、どの問題が別のどの問題と影響関係にあるかがわかり、1つの問題の解決が別の問題の解決になったり、別の問題をさらに悪化させることになってしまうのかというところが見えるようになります。
そうやって複雑に絡み合った問題を構造的に整理すること自体、デザインです。分析は創造的な作業だということは『ペルソナ作って、それからどうするの?』でも書いていますし、その具体的な方法として、5つのワークモデルを作ったユーザー行動分析やそれを実践する場としてのインタープリテーション・セッションの進め方も紹介しています。
ほとんどのデザインの現場でこの分析するという作業をおざなりにしているから、問題の影響関係を把握できないまま、具体的な解決策をデザインしてしまって、個別の問題のこっちを潰したら、あっちがダメになるという風な堂々巡りの悪循環に陥ったりするのです。
「考える」というのはこの構造化による論理的な発想と、次に紹介する実際に手を動かしてモデルをつくってみながら行う感性的な発想の両方が必要なのです。たいていはどっちかしかできないのが問題なんですけどね。
4.やってみる
いくら頭の中だけで論理的に組み立ててみても、よほど高い想像力と豊富な経験がない人でないかぎり、実際に実物に近いものをつくってみないと必ず見落としはあります。どうせなら論理的な思考と実際に手を動かしながら行う思考はある程度平行して行うようにしたほうがいい。右脳と左脳を両方使うことで、より創造的な仕事ができるようになります。
しかも、ひとりの脳みそだけを使うよりも、ある程度の人数の脳みそを同時に使えた方が、たがいの考えが新しい考えのための刺激にもなるので、創造性は高まります。
もちろん、それにはブレインストーミングやワークショップを中心にしたワークスタイルに慣れておく必要はあるでしょう。慣れてないと他人に何かを伝えるコミュニケーションコストのほうが大きくなってしまい、創造性を発揮する前に、コミュニケーション自体がままなりません。ひとりでやったほうが早いとか思ってしまう原因がそこにあるわけですが、そう考えるのは早計でまずはグループワークの技法の習得を徹底すればいいだけの話です。
そうやって、とにかく「やってみる」ことで思考することが大事。専門的な用語でいえば「プロトタイピング」です。
5.反省する
「やってみる」といろいろうまくいかない点が見つかるはずです。そしたら「反省する」。リフレクションするんです。なぜ、うまくいかないかを考えることほど、次の創造的なアイデアにつながるものはありません。「反省する」方法にも大きく2つあります。
1つは自分たちで「反省する」こと。これはさっきも書いたとおり、「やってみる」うちに気づいた失敗を反省して改善する方法です。
もう1つが自分たちでは気づかない失敗を、他人の目を借りて「反省する」方法です。ユーザーテスト法もその反省方法の1つですね。
『ペルソナ作って、それからどうするの?』でも書いているとおり、「考える」から「やってみる」「反省する」は一連の反復的なプロセスになります。ウォーターフォール的にまずは考えて、次に、やってみて、最後に反省するという形ではなく、考えながら、実際にもやってみて、やってみながら反省して、また、考えるみたいな小さなサイクルをまわしたほうが結局は効率的に最善策にたどりつきます。急がば回せです。
考えて実行する5段階プロセス
といった5段階が、どんな分野のどんな問題を解く上でも基本となるPDCAサイクルであり、「考えて実行する5段階プロセス」です。もっと詳しく知りたい方は、『ペルソナ作って、それからどうするの?』を読んでいただくか、「デザインの方法:ブルーノ・ムナーリの12のプロセスの考察(a.概要)」や「ペルソナとISO13407:人間中心設計プロセスの関係に関するまとめ」「IDEOのデザインプロセス、再び。」あたりを読んでみてください。
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