今日は、大学時代に「自分で自分を育てる環境」として用意してもらったことのなかで、何より一番、いまの自分にとって重要だったと思える経験について書いてみたいと思います。
僕のチャレンジの起源としてのメグミ・大場
5月30日に『ペルソナ作って、それからどうするの?』
メグミ・大場さんという舞踊家の活動を日独5人の写真家がとらえた写真で紹介する展覧会。メグミ・大場さんという方は、日本の現代舞踊の創始者・石井漠の姪にあたる石井綾子のもとで3才より踊り始め、ドイツ国立音楽大学に留学、ドイツオペラ座付属バレエ学校でクラシックバレエ・民族舞踊・ジャズダンスなどを学んで帰国。新潟県長岡を中心に創作活動を積極的に展開している方です。2000年の“ドイツにおける日本年”の一環として、国際交流基金主催フランクルフト市シルン美術ホール「現代日本絵画展」のオープニングとして「間の文化」を公演しています。
僕がどうしてこの方の写真展に行ったかというと、実は大学時代にこの方の舞台の振付をさせていただくという光栄な機会をいただいたことがあるからです。その経験こそが僕のチャレンジの起源といえるのだろうなと思っています。
大学生が振付をすることになったきっかけ
「ウェブ人材として育つための3姿勢+5つの実践(後編)」では自分を育てるための実践の1項目として「仕事では積極的にチャレンジを」という項目を挙げました。ただ、あらためて思うに、社会人になってから突然チャレンジャブルな姿勢になれといってもなかなかむずかしいかもしれません。その意味では学生時代にいかにチャレンジ精神を養うかということは非常に大切な気がします。
チャレンジ精神を養う経験、そして、何かをつくり表現する経験という意味では、大学時代以来のメグミさんとの舞台を通じた経験は僕には何ものに代えがたい貴重な経験です。
メグミ・大場さんの振付をさせていただいたきっかけは、僕が大学時代に所属していたゼミ(いわゆる卒論の研究のためのゼミではなく、一般教養・数学の先生がやっていたゼミです)の先生が、前の年にメグミさんの振付をしていたんですね。先生も踊りについては素人です。ただ、変わった人だったのでメグミさんもとても満足されていたのだと思います。それでメグミさんが今度は学生の振付で踊ってみたいと言い、ゼミの先生が「誰かやらないか」と僕らに声をかけたんです。

大学2年生の時でした。公演は原宿のSTUDIO V(美容室)がある建物の地下のスペースでやりました。
「誰かやらないか」と先生が話を持ち出したときに「やります」といったのが僕だったんですね。おかしなもので何の躊躇もなかったんです。とにかく面白そうだからやってみたいという気持ちのほうが強かった。
もちろん、それまでの人生でダンスとか舞台の制作に関わったこともないし、自分がダンスをやっていたなんてこともなかった。ただ、その前の年に先生が振付したときの公演を手伝っていたので、振付から実際の公演までの流れは見ていたというくらい。ただ、そこでいろいろお手伝いしていたときも面白かったんですね。その面白さがあったから、ほとんど迷わず「やります」って手をあげてしまったんですね。いま思うと無謀ですけどw
素人が振付だけでなく、出演も
夏休みに何度かメグミさんのスタジオに泊まり込みで行って、メグミさんといっしょに振付を考えました。面白くて夢中でやりましたね。メグミさんが休みましょうって声をかけてくれなかったら、ずっとやってましたから。バレエスタジオなので一面鏡のある場所で、メグミさんがいない間も動きを考えてました。面白かったですね。「ローレライ」というタイトルで行われたその公演で僕は振付だけでなく、音楽の選定や出演もさせていただいたんですね。だから、スタジオに行くと、振付をつくるだけじゃなく、自分も練習をした。記憶では1時間くらいの公演だったと思いますが、自分の出演もちょい役じゃなく、4分の3くらいは舞台にあがる設定にしてしまったんです。振り付けはもちろん、舞台にあがるのもはじめてなんですから、いかに無謀か。でも、面白さのほうが勝って、最後まで不安にならずにやっちゃったんです。
メグミさんとの付き合いはそれで終わりにならず、その後、メグミ・大場さんの舞台には学生時代、卒業後も含めて、何度かいっしょに立たせていただいたりしました。長岡でも、東京でも、いろんな場所で舞台をごいっしょさせていただきました。
長岡の山の夜
一度、場所は正確に覚えていないのですが、長岡の山のなかで夜に焚火をしながら、メグミさんたちと踊った経験があります。あれはいったい何の時だったのかな? たぶん、メグミさんがその山で踊ったのを見に行ったんだと思います。きっと僕はもう大学は卒業していたんだと思います。それでメグミさんの踊りが終わったあと、焚火をしながらお酒を飲んだり、話をしたりしてる時に、僕も何分か踊らされるはめになった。即興ですよ。でも、その頃ってそれが普通のことだったんですよね、僕には。たまたま持っていたCDから曲を選んで、その場で何分間か動きまわった(踊りといっても素人ですからただの身体表現です)。
その時のことが自分のなかで記憶に残っているのは、そこにいたみんな(ゼミの後輩がほとんどだったと思います)に「将来何をしたいか?」みたいなことを先生が質問をしたときに、僕自身が「何かをデザインする仕事」と答えたからなんです。
たぶん、その時以外に自分が「デザイン」という言葉を仕事に結びつけて話したことは一度もなかった。実際、その当時は雑誌の編集の仕事をしていてデザインなどはしていなかった(雑誌のレイアウトくらいはしてましたが)。でも、なぜかその言葉が口から出たんですよね。
その後はマーケティング・リサーチの仕事をしたりしつつ、ウェブの制作の仕事の世界に入っていくわけですが、どういうわけか、いまDESIGN IT! w/LOVEなんてブログを書いているし、ユーザー中心のデザインなんかを仕事にしているわけです。それもメグミさんやゼミの先生と自分の身体というリソースを使った表現の場を何度もごいっしょさせていただいた経験から自然に口に出たものだったと思うんですよね。いまでも僕にとっては「デザイン」という言葉はその意味で非常に身体的ですし、今回の写真展のタイトルになっている「八百万への回帰・自然の中で静かに生きる」ということに親近感をもったものです。僕の『ペルソナ作って、それからどうするの?』
学生時代の経験
経験ってこういうことだと思うんですよね。こういう経験が得られる場に臆せず飛び込んでいけるか。それには不安に勝る好奇心、自分自身の価値観で面白さを肯定できることは必要でしょう。ただ、僕自身がそうだったように、そういう経験は学生自身の力だけではなかなかつくることはできません。その意味でまわりにいる人のサポートは欠かせません。
自分自身がこういう貴重な体験を学生時代にさせてもらっているからこそ、「いま、人材が自ら育つような時空間という場を作れているだろうか」と僕が書くときはそのレベルで「育つ場」というのを想定してしまいます。産学連携で企業の方と触れ合うのもいいのですが、それだけだとビジネスの捉え方自体、狭くなってしまうのではないかという懸念もあります。
学生の将来の幅をどれだけ広げられる経験の場を提供できるか。これは教える側のバイタリティも相当求められますよね。
メグミさんと何度か舞台をごいっしょさせていただいて、何かを表現すること、組み立てることに対して臆せずチャレンジするという意味ではこれ以上の経験はなかったと思います。また、身体を使って何かを表現し、学ぶということの大切さを学ばせていただけたとこの上なく感謝しています。
そんな思いが今日メグミさんの写真を見て込み上げてきました。そして、そういう機会を与えてくだったゼミの先生にも感謝。その先生にはほかにもいまの僕につながるいろんな機会を与えていただいたし、何よりその先生がゼミを運営するのにあたってのテーマが「モテル男・モテル女を育てる」だったからすごいな、と。僕自身はそれを卒業後に聞いたのですが、ゼミでやってたこと照らし合わせてみると聞いた時はあまりのギャップに唖然としました。それもまた面白い話なのですが、また次の機会に。
今日、僕が見てきた写真集の情報は以下になります。
新横浜周辺の方はお時間のあるときにでも行ってみてください。メグミさんが踊るビデオも流れていますので。
- 時間:
- 平日 9:00~18:00 入場無料
土・日・祝日は休み
- 会期:
- 2008年6月5日(木)~2008年8月29日(金)
- 時間:
- 平日 9:00~18:00 入場無料
土・日・祝日は休み
- 場所:
- テュフ ラインランド フォーラム
横浜市港北区新横浜3-19-5 新横浜第二センタービル1F
- 展示作品:
- 写真39点(イエンス・ナーゲルス、ヴァルター・フォアヨハン、角田和雄、村山進、高島史於)

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この記事へのコメント
ななし
本の出版おめでとうございます
本当におめでとうございます
本屋さんに行ったら
10冊は買えないけど
探してみます
tanahashi
それとも、あえてこのエントリーを選んだこと、「10冊」というキーワードに意味はあるのでしょうか?
ゼミの後輩
何軒か本屋さんをまわってみたのですが
店頭では見つけられませんでした
(取り寄せてくれるとは言ってました)
やはり平積みされているものを
手にとって買ってみたいので
もう少し探してみます
時々見ています
体に気をつけて
ご活躍お祈りしています
tanahashi
だとしたら、うれしいです。
ありがとう。
お元気ですか?
本ですが、お近くにジュンク堂はありますか?
ジュンク堂だと、比較的どこの地方でも置いてあるそうです。
平積みかはかわりませんが。
メグミ・大場
tanahashi
うれしいです。
先ほど、メールでも返事を書きました。
僕もふたたび会える日を楽しみにしております。